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ピンポーン、チャイムが鳴ったからわたしはいつものように玄関まで小走りで向かった。ガチャリと鍵を開けたら見慣れた赤髪。おかえりなさい、と微笑んで彼の持つ鞄を受け取れば「ああ」と返ってくる短い言葉。前を歩く彼、征十郎くんの後ろにくっついてリビングまでいき、鞄をひとまずソファーに置いて今度はスーツのジャケットを受け取った。


『お疲れさま』
「ん」
『…なんだかいつもよりしんどそうだね、大丈夫?年末は忙しいの?』
「まぁ、少し」


征十郎くんの口数が少なくてそんなところから彼の疲れ具合が伝わってくる。もともとひょうきんな性格ではないけれど、そこまで無口なわけでもないからわかりやすくもある。征十郎くんの前髪に指を通し、どこか疲れた目をする彼に笑いかける。


『…誕生日くらい、そんなに疲れなくてもいいのに』
「別に疲れたくて疲れてるわけじゃないし、誕生日なんて関係ない」
『関係なくないよ、もう』


けど疲れたくて疲れてるんじゃないってのは…まぁ、そうだろうなぁ。征十郎くんってほんとなんでも責任負って一人で頑張っちゃうような性格。ネクタイに人差し指をかけゆるめる仕草はわたしの好きなものだ。肩を回しながら心底疲れてそうな彼にわたしは心配しかできないけれど。


『…そんなに仕事大変なの?大丈夫?』
「大丈夫」
『家でくらい無理しないで』
「大丈夫じゃない」
『ほうら』
「…座るぞ」


征十郎くんがわたしの腕を掴みそのままソファーに腰掛ける。二人して並んで座って、征十郎くんがこんなことするなんて珍しい。普段ならどこまでも意地張って「大丈夫」と言い切るくせに、これはやっぱり誕生日の効果なんだろうか。そして誕生日効果はそれだけでは終わらず、あろうことかあの、あの征十郎くんがわたしの肩にこてんと頭を預けてきたのだ。明日は雪…いや、ひょうとか降るんじゃないかな。怖い。


『誕生日だから張り切って夕飯作ったのに、冷めちゃうよ』
「冷めてもうまいよ」
『……。誕生日プレゼントはまたあとでね』
「ああ」
『みんなからはメールとかきた?』
「きた。黄瀬からのメールは相変わらずキラキラしてて少しうっとうしい」
『黄瀬くんか、懐かしい。元気そうだねぇ』
「ん」


征十郎くんの頭にわたしも頭を乗せて、会話を続ける。疲れてると言うわりによく喋るのはやっぱり誕生日効果なのかな。


『……』
「……」


正面にあるテレビからの声だけが響くマンションの一室。お互い黙ってだけど不思議と嫌じゃなくて。昔から征十郎くんの隣は好きだ。征十郎くんとの沈黙だって、好き。


『……そろそろご飯食べようか、それともお風呂入る?』


どのくらいそうしていたかわからないけどそろそろと思ったわたしはソファーから立ち上がって振り返り彼に問いかける。するとまだ座ったままの彼がわたしをじっと見上げている。


「……」
『どうかした?』
「…もう少し、」


そう言ってわたしの袖を掴んでひきとめる。


『…あ、甘えてる』
「……違う」


旦那様の滅多に見られないデレなので、おとなしくストンと座り直す。だけどいつまでたってもシャツの袖を離さない彼にはやっぱり愛情を感じるほかなかった。


「…お前だけには適わないな」


そんなの、お互いさまでしょ。


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121220//シャツの袖を離さないわがまま
間に合った!赤司様お誕生日おめでとう!
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