禁断の恋に憧れなかったのかと聞かれたら、そりゃあちょっとくらいはそういう気持ちだってあった。
『坂田先生、』
だけど実際、いざそうなってみりゃこんなめんどくさいもんないと思う。デートは人目につかないよう絶対に2人きりの場所だし、運悪く見つかればそこで終わり。いつだって細心の注意を払わないといけない。恋してた時から誰にも相談できないもどかしさは抱えていたが、付き合った今じゃあの頃の悩みなんてかわいらしくも思える。
「…おい、あんまここに1人でくんなって言っただろ」
『だって友達と来たらみんな坂田先生坂田先生ってうるさいんだもん』
それでも別れる気はないし、私は坂田先生が好きなのでめんどくさいこともひっくるめて受け入れられる。愛ってすごいのだ。
ところで私は今坂田先生のお決まりの住みかとも言える国語準備室に来てるわけだが、やっぱりちょっと怒られちゃった。実は前から1人で来るのはやめろと言われていた。先生は煙草を吸いながら眉間にしわを寄せる。
「あのな、お前…」
『ごめんなさい、怒らないでよ』
「……」
『でももう放課後だから…大丈夫かなって思ったんだもん』
「…放課後だから、あやしいんだろーが」
わかってるよ。そんなの知ってる。勉強に熱心でもなんでもないわたしがわざわざこんなとこ、おかしいもんね。
わたしは先生のいるデスク前まで歩み寄り、そのまま腰を屈めて机に肘をついた。
『先生。別れようなんて言わないでね』
「なんだよいきなり」
『先生って、それこそいきなり言いそうなんだもん』
「信用ねーのな」
『うん。私未だに先生が私以外の女の子にも手出してるって思ってるから』
「まじでか」
『ねえ、言わないよね別れるなんて』
「お前って妙に考え込むよな、悪いクセ」
こっち来い、って先生が手招きするからわたしは体を起こして机の向こう側に回った。すると先生は椅子からおりて机の影にしゃがみこむ。わたしも同じようにした。先生曰わく、「鍵かけてねーから」だって。なるほど。
「先生はつばきちゃんだけですよ」
『………』
「まじだぜ?うん、ほんと。つーかこんなこそこそした関係お前以外の奴とやんねーよ、めんどくせぇ」
『………』
「…つばき?」
『……言って』
先生の白衣をぎゅっと握りしめ、うつむく。
『先生の言葉は信じたよ。わたししかいないよね、彼女。…わかったから、別れるなんて言わないって言って』
「……」
『嘘でもいいの。破ったっていいから、だから今だけは安心させてよ』
「……」
先生を困らせる言葉ばかり言って、ほんとわたしって子供。ワガママだし、やきもちやきだし、可愛くない。こんなの先生だって嫌に決まってる。
「…ごめんな、つばき」
小さく先生が呟いた。頬に添えられたら冷たい手に顔を上げれば、優しくキスをされた。きっとわたし、もうすぐフられるのね。こんなにしょっぱい味のキスは初めてだった。
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121208//汚いキスで繋いでおいて
わかりにくくなっちゃった。坂田先生はつばきちゃんのためにもそろそろ潮時、なんて考えてます。ちゃんと本気で好きです。それを察しちゃったつばきちゃん。