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『隊長、隊長はどこにいますか』
「なんでィ、朝っぱらからうるせーな」
『こんなところでサボってないでちゃんとお仕事してください。それからもう朝じゃなくてお昼です』
「あーヤダヤダ。これだから気の利かねえ部下は。上司が気持ちよさそうに休んでんだから黙って俺のぶんの仕事もこなすのが美しい上下関係ってもんだろィ」
『そんな甘ったれた上下関係いりません』


今日も今日とて沖田隊長はサボっていて、居間に置かれたこたつで気持ちよさげに寝ころんでいた。いつもの不気味なアイマスクはずりりとずらされ、可愛らしい円らな瞳が覗く。夏だとかたっくるしい真選組の上着はこたつでもかたっくるしいらしく、隊長の隣に乱雑に置かれていた。私も一緒になってこたつに入ると隊長は体を起こしみかんに手を伸ばす。


「ん」
『…自分で剥いてくださいよ』
「深爪なんでさァ」
『ちっ。深爪で皮剥いて爪の中にいっぱい詰まればよかったのに』
「最近刀研いだんだけど、ちょっと試し斬りしていい?」
『わーごめんなさいごめんなさい!剥きますから!』


隊長は私よりも年下のくせしてこんなふうに脅したりしてきます。ほんと、そういうのどうかと思う。上下関係からやむなく従ってるわけではもちろんないしこの人の凄さとかはきちんと理解しちゃいるけどちくしょうやっぱ悔しい。


『あ、お通ちゃん新曲出したんですね』
「どうせまた放送コード引っかかるようなモン歌ってんだろィ」
『でしょうねー』


隊長はこたつに頭を転がしテレビの方を向いていて、いったいいまどんな顔をしてるのかわからない。わたしはそんな彼の栗毛を時折見つめてはみかんに視線を戻し、見つめては戻しの繰り返しをしていた。


『こんなところでサボってるの土方さんに見られたらどやされますね』
「そんときゃつばきのせいにして俺は逃げやす」
『最低』


会話が途切れて間もなく、隊長がそういえば、と口にした。わたしはみかんを剥きながら彼の話に耳を傾ける。


「こないだお前変な輩に絡まれてたけどあれどうしたんでィ」
『なっ、見てたんですか?』
「まあ、ちらっと」
『くだらないナンパですよ、隊服着てなかったんで』
「ふーん…そのままついてったのかと思ったわ」
『はあ?』
「なかなかの色男だったじゃねーか、お前もそろそろ嫁のもらい手くらい考えときなせェ」
『………』
「いでっ」


隊長からは絶対に聞きたくなかった言葉に私は剥き終えたみかんを頭に投げつけた。するとむすっとした顔をこっちに向ける。だけど私も負けじとむすっとする。沖田隊長にだけはそんなこと言われたくない。


「何するんでィ」
『隊長のバカ』
「……」
『アホ、最低』
「……」
『隊長なんかだいっきら、んっ』


だいっきらい、そう言おうとした瞬間隊長が私の首裏に手を回してその強い力で引き寄せた。そして私の唇にふにっと、柔らかい感触。マシュマロとは違うような、でもマシュマロよりとっても繊細なもの。


「…それだけは言うな」
『は、はひ』


この恋に期待、しちゃってもいいのだろうか。


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121202/愛は此処にあるよ
おひさしぶりの沖田隊長。
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