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この寒い時期に公園のベンチでお喋りなんて、我ながらどこの初々しいカップルだと言いたくなる。だけどその初々しいカップルとはわたしたちのことよ。キスさえもしたことのないプラトニックな関係。今まで散々ある程度のことは経験してきたがここまで純粋なお付き合いは初めてで正直困惑していた。相手が相手なだけに、よけいなのかもしれない。


「なんかお前今日薄着じゃねぇ?」
『そう?あ、でも確かに寒いかも』
「着とけ」
『わ、でも大我が寒くなるよ』
「オレは平気」


火神大我と交際して約半年。正確には5ヶ月だけど。手を繋いだのなんて片手の指だけで足りちゃうし、先述した通りキスは未だにしていない。もちろんそれ以上のこともだ。大我に男らしい告白されて、わたしはそのとき彼氏がいたけどあまりのイケメンさ(顔とかじゃなくてね!)に惚れて火神と付き合ってしまったときはまさかこんなことになるとは夢にも思ってなかった。少なくとも最初のデートから覚悟はしていたし、気合いも入ってた。けど手さえ繋がずさようなら。1回目だし仕方ないと言い聞かせたが、それが5回、10回も続くとさすがに呆れる。わたしにはそんなに魅力がないのかなんてとうに考え尽きた。

大我の着ていたアウターに身を包むと、あったかかった。わたしはそのぬくもりが大好きで、大我のぬくもりを感じることによっていろいろな感情を知ることができる。


「黄瀬がさ、こないだ会ったときお前のこと見たいって言ってた」
『黄瀬くん?嫌だよ、あんなかっこいい子』
「おう。でもあいつ、顔はいいけど頭はわりーから大丈夫」
『関係あるの、それ』
「気合うってお前ら」
『ひどい。暗にバカって言ってるでしょ』
「オレが言えねえけどな」
『ほんとにね』


大我とのたわいない会話は楽しく、時間なんてあっという間に流れた。そんな時間はわたしにとって特別なもので嫌なことがあったときも大我に話せばスッキリしたし、愚痴をこぼす汚いわたしのこともきちんと愛してくれたと思う。「そうか」って相槌打って、ポンポンと頭を撫でながらわたしの心を癒してくれる。好きだと思う。本気で、あの時大我が告白してくれてよかったと。


『(心から思うわけですよ)』
「…なぁ」
『ん?』
「お前、キスしたいとか思うか?」
『ど…どうしたのいきなり』
「いや…なんでもねぇ、忘れてくれ」
『え、なに、気になるよ!そんな赤い顔して何を…』
「……」


みるみる赤く染まっていく大我は照れを隠すためなのか口元を手で覆いながら「うっせー」なんて言っている。どうした。


「……その、黄瀬に会ったときにあいつが、さ。まだ…キスもしてねえのかよ、って」
『……』
「っ、わ、忘れろ!つーか忘れてくれ頼むから!」


正直、心の中だけでだから言えるけど『黄瀬くんナイス』と思った。いつまでたってもキスのひとつもしない大我に辟易していたと言ってもいい。もちろんそれは男気がないだとか呆れるわけじゃなく、たんに大我が好きだからで。だからこそ、こんなチャンスないんじゃないかと思った。


『……やだ』
「…は?」
『忘れてなんかやらない』
「え、おい、」
『…しないの?』


ベンチに置いた大我の手に自分のそれを重ね、顔を見上げた。策士だと蔑まれたっていい。大我の温もりを感じていたい。


「…する」


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121201/シリウスは眠らない
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