久々に会った初恋の彼はリアカーを自転車でひいていた。そんな、普通の街並みには明らかに異様な光景を見たときに思わずわたしは肩からさげていたスクールバッグをずるりと落としてしまったがこれは仕方ないと思う。
だって、よく考えてほしい。
相手は初恋の人だよ。中学の頃同じクラスで偶然隣の席になってそれからなんとなくいい感じになった、アイツ。バスケ部に所属していて普段の授業中でのおちゃらけた雰囲気と部活中のまじめな雰囲気のギャップにやられたのはきっとわたしだけじゃないだろう。
告白なんて出来なかった。ありきたりな『フられて気まずくなるのが嫌だ』という理由から。楽しくも悲しくも恋はしてたけどそんな感じのまま結局卒業式も告白できずサヨナラしたわけだ。バスケの強豪校である秀徳へ行く、と聞いたがだからといって何かが起こることもなかった。
それがまさか こんな形で再会することになろうとは。
『…何してんの』
向こうは向こうで、ピタリと止まり目を見開いてこっちを見てるからまさか忘れられたなんてことはないだろう。わたしは半年以上ぶりに彼に声をかけた。お互い別々の高校に行ってからは会うこともなかったから本当に中学以来で、それがさらにわたしに衝撃を与えていたと言ってもいい。
「…いや、違うんだ、うん。まじで。ねぇ話聞いてお願い」
『…ち、近付かないでクダサイ』
「白藤?あれ、白藤さーん?なんで遠ざかるのかな?」
『……わたし……まさか高尾がそんなパシリまがいなことするほどお金に困ってたなんて知らずに…』
「は」
『ごめんね、あの時の…あの、修学旅行のときの写真の現像代…今さらだけど払うよ、いくらだった?』
「いやいらねーし」
『つまんない見栄張んなくていいよ、べつに。ごめんね気付いてあげられなくて』
「とりあえずお前はなんも変わってねーのな」
『そっちこそ』
冗談はこの辺で置いといて、わたしは高尾の言い分に耳を貸すことにした。なんでもこのリアカーに乗ってる緑の頭した彼とのお遊びみたいなものらしい。信号待ちごとにじゃんけんをして負けたほうが自転車を漕ぎ勝ったほうがリアカーで楽をできるという、なんとなくらしくないゲーム。
「…んじゃ、遅刻するしそろそろ行くわ」
『あ、うん。わたしも行かなきゃ』
「…どこ行くの?」
『彼氏のとこ』
「えっ」
『嘘。友達のとこ』
「………」
『ごめんね』
「うっせ」
じゃーな、そう言って高尾は再び重そうなペダルを漕ぎ始めた。わたしも高尾とは反対方向に歩き出した。久しぶりに初恋の人に会ったって、結局この程度。寂しくも悲しくも、切なくもある。わたしはふっと自嘲気味に笑って髪を耳にかけた。
──いつだってわたしには、勇気が足りない。
「……白藤!」
高尾に呼ばれて、ピタリと足を止めて振り返った。
「番号とアドレス、変わってねーよな?」
『…うん』
「じゃあまた、連絡するから」
『……待ってる』
その言葉はあまりに小さく、ちゃんと向こうに届いたのかわからないけど高尾が懐かしい笑顔を見せるもんだから、きっと大丈夫なんだろうなんて安心した。
どうやらわたしの初恋のエピローグはまだ始まってなかったらしい。
(誰だ、あの女は)(んー、中学の頃の友達?つーか、好きな奴?)(!!)(ははっ!真ちゃん今びっくりしてるでしょー!)(…お前にそんな相手がいたことに驚いただけだ(いつも誰にでもヘラヘラ笑うお前に、))(な。オレもびっくり)
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121118//エピローグのない初恋
ツイッターで投下したネタを本宮さまが気に入ってくださって小説に!とのことなので調子乗って書いちゃいました ごめんなさいorz 今後2人がどうなったかはご想像におまかせします*