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『いいなぁ、ピアス』


そう言って彼女はオレの左耳に触れた。

3限の古典も終わり、ほんの10分休憩。つばきはオレの隣の席で、ちょうどお互い届く距離にいるから触りたくなったのだろうか。時折感じる視線の答えが今ようやくわかった気がする。どうでもいいかもしんないけど、一応この子がオレの彼女。


「つばきも開けたらいいじゃないっスか」


一応ってつけたことにはちょっとした理由があって、ぶっちゃけつばきとはなりゆきみたいなもんで付き合ったわけだし(ふつーに可愛くて、ふつーにモテてたから)、そろそろ潮時かなーなんて考えてた。だってどうせこの子も周りと一緒。見た目だけで寄ってくるバカな女のうちのひとり。わかってて付き合うオレもバカなんスけどね。

適当に笑って思ったことを口にしたらつばきは自分の耳に触れてから『んー』なんてうなる。


『開けたいんだけどね』
「なんで開けねえんスか?」
『え、そりゃあ…、まあ、ほら。うん』
「?」


歯切れ悪い言葉に首を傾げる。彼女は言いにくそうに視線をずらしつつ、ピンクの唇を開いた。


『怖いじゃん』
「え?」
『だから、怖い』
「怖い?え、開けるのが?」
『うん』
「キャラじゃねえ!」
『うっさい!』


彼女の外見的にも性格的にもピアスを開けていないことはおかしいなとは時折思った。派手な見た目のわりに耳は清楚で、そして何よりサバサバした性格上まさかピアスを怖がるなんて誰ひとり考えつかないだろう。


「ふーん」
『…なに』
「開けたい?」
『開けたいけど怖いんだってば』
「じゃ開けよ」
『人の話聞いてた?』
「よし、決めた」


オレは立ち上がり、つばきの手首を掴み同じく立たせる。きょとんとしたその顔はやっぱり可愛くて、好みだなんてこっそり思った。確か次の授業は数学。めんどくさいし、うん、オレ天才。いいこと考えちゃったんだもん。


「行くっスよ」


またまたぶっちゃけたら、ほんとはオレが数学を受けたくないからなんだけど、ここはちょうどいい口実だ。

彼女にピアスの穴を開けてあげよう。


♂♀


『絶対やだ!』
「平気っスよ、ほらあっち向いて」


自転車置き場まで行って一台取り出しまたがり、後ろにつばきを乗せて駅前直行。移動中にこれからピアッサーを買いに行くことを伝えたらつばきは軽く悲鳴をあげた。ちらりと後ろを見たら顔を真っ青にさせてるもんだから面白かったがそれはまあ内緒。

とにかく、そんなこんなでオレたちはピアッサーをゲットしたわけだ。適当な公園に入りベンチに並んで腰掛け、ビニール袋を漁る。中からは当たり前だけど新しいピアッサーが出てきた。


『無理だから!ほんとに!』
「大丈夫だって。案外痛くないんスよ?オレもやる前はわりとビビったけど」
『こ、怖いってば…』
「へーきへーき」


正面向くつばきの右耳に触れる。うん、人のに穴開けるのは慣れてるしいける。緊張してるのか肩が上がってるつばきの耳にピアッサーを添えた。ビクッとなるのがやけに可愛らしい。


『む、むりだよほんとに…』
「大丈夫っスよ」
『りょ、涼太は慣れてるかもしんないけどわたしは初めてなんだよ?』
「そうっスけど…」
『や…やめっ…』
「今更。ほら、動かないで」
『うう…優しくして…ぜったい痛くしないでね…!』
「………」
『…涼太?』
「…っ!…い、いくっスよ、」
『うん…っ』


なんでピアス開けるだけでこんなえろい気持ちになるんスか!?今まで女の子から開けて開けてって頼まれてきたけどこんなことなったことないんスけど!

…あ、つーか。


『…っ……』


オレ、この子のびくびくした顔好きかも。


「…さんにーいちでやるね」


そう言ってから小さく息を吸い込み、「さん、にー、」と言ってからガシャンと穴を開けた。『ひっ!』なんて彼女が声を漏らす。


『涼太!?いちは!?』
「開いたんだからいいじゃないっスか」
『よくないっ!び、びっくりした…』
「ん、じゃあ冷やして」
『…うん』
「……」
『……涼太さぁ』
「ん?」
『…えーと。こんな時に話すことじゃないかもしれないけど、こんな時くらいしか無いかもしんないし聞くけど…別れたいとか思ってる?』
「えっ」
『…なんとなくだけど、そんな気がして』


女のカンってこえー。

…って、一時間前までのオレならそう思って「ごめん」って謝ってそれで別れてただろう。


「つばき、」


だけど、思いのほか怖がりな性格とか、お年寄りの落とした物をオレのいないとこで拾っちゃう優しさとか、浮かんだ涙の綺麗さとか、柔らかかった耳たぶとか。


「今日、8月30日ってオレが初めてピアス開けた日でもあるんスよ」
『…そうなの?』
「だから、オレたち同じ日に開けたわけ」
『…うん』
「オレの左耳ピアスは守る人の証、つばきの右耳ピアスは守られる人の証」
『え、』
「これでおそろいのピアスつけれるっスね」


初めてつばきがオレのことを好きでいてくれてよかったと思った。別れるなんてバカな考え、どっか飛んでったっスよ。


(君に恋するまであとわずか)

(…別れない?)(別れたいんスか?)(そんなわけ…!ただ涼太がわたしのこと好きじゃないのなんてわかってたから、)(なら付き合お。ちゃんと、オレつばきのこと好きになる)(何その自信…)(だって今もうちょっと好きになっちゃったんスよ)

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120830/ピアスで語る愛
黄瀬くんと同じ日にピアス開けようとしたけどやっぱりこういうのは黄瀬くんにやってもらわないとダメだと思っておあずけ(ビビった)
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