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『あおみー』


やる気のない声、ぼけっとした表情。このクソ暑い日にカーディガンを着ているコイツはまるで呪文を唱えたかのようにわけのわからない言葉を口にした。


『ねえ、あおみーってば』

「あ?オレかよ」

『ほかに誰がいるの』


笑いもせずにさっきから曖昧に鼻歌を歌い続けるこの女は、なんとなくだけど心が死んでいるような気がした。何かに高揚してるところを見たことがない。


『あおみーって、バスケうまい?』

「めちゃめちゃ」

『ふーん。どうして?』

「知るか」

『知らないの』

「知らねえ」

『ふーん』


オレの視線はずっと変わらず堀北マイちゃんの写真集。コイツは今どこを見ているんだろうか。


『あおみー』

「あ?つかやめろその呼び方」

『私青峰くんが好きなのかなぁ』

「……さあ」


ムードもへったくれもねーな。
つーかオレへの気持ちオレに聞いて解決できるもんかよ。お前のことはわかってても気持ちまではわかんねーよ。だってお前わかりにくいじゃねーか。


『んー、わっかんないなぁ』

「考えろよ」

『考えたよ。でも見えない』

「じゃあ好きじゃねーんじゃねーの」

『…そのはずなんだけど』

「へえ」

『何が恋なのか、教えて欲しい』

「……」


恋ってのは…


「恋ってのはよ、」

『ん』

「そばにいれりゃいいなんて生温い考えじゃねーよ」

『えー夢なーい』

「隙あらば襲ってやろうとか、オレのもんにしたいってゆー欲だろ」

『…ふうん。わかった』


何がわかったんだ。
オレは写真集から目を離さずに隣でつばきが口ずさむ名前もわからない歌を聞いていた。


『あおみん』

「あだ名うぜーな」

『私わかった』

「何が」

『青峰くんのこと、好きだ』

「え」

『隙あらば襲ってやろうとか私のもんにしたいとか思っちゃうもーん』

「マジかお前」


マイちゃんの写真集から目を外す。そしてつばきを見た。


『変かな?』

「変」

『あおみーは私のことどう思ってる?』

「隙あらば襲ってやろうって思ってる」

『それって恋なんじゃないの』


ふふ、とおとなしくつばきが笑った。オレはその笑顔に見とれて、でもやっぱりそいつの心はどこか掴めなくて。

なあ、オレたち、これって両思いなんじゃねーのかよ。


『両思いかぁ』

「オレのもんになってくれんの」

『それはやだよ』

「は?」

『青峰くんが、私のものになって?』


コイツはやっぱり掴めないが、オレの心を掴むことだけはうまいようだ。


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120713//名前もわからない歌


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