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「あのよ」
「はい、なんですか?」


職員室でここまで笑顔になれるかってくらいニコニコして短い問い掛けに返事をする女子生徒。おおかた俺に呼び出されて舞い上がってるんだろう、いや自惚れなんかじゃない決して。こいつは本当に異常なくらい俺に好意を示してくれている。あからさまなそれは誰から見てもわかるものだった。


「この進路希望書、なんとかなんね?」
「なりません」


まあいい返事だこと。


「私は坂田先生のお嫁さん以外なりたいものなんてひとっっつもありませんから」


嘘をついている目ではない。本気なんだ彼女は。だからこそ困る。冗談で言っているなら俺も乗って軽いジョークの言い合いなんてもんもできるがいかんせん相手は本気なものでして。俺的にジョークでもこいつ的にはガッツリ本命チョコよろしく受け取られるかもしれねぇ。つーか、


「そういうこと職員室で言うなっつの…」
「なんでですか?」
「そりゃお前、俺の立場がだなー」
「立場が気まずくなるなら職員室には来なければいいじゃないですか。ずっとずっと私のそばにいてください。必要なものがあれば私が職員室から取りますから。あ、先生のためなら授業だってサボれますし学校だって辞めれますからご心配なく」
「それが心配なんだよバカ」


白藤つばきは真面目な生徒だった。3年の頃からZ組に入り当初俺はそのことが謎で仕方なかった。テストでは毎回3本指に入るような真面目で賢い生徒をなぜうちのようなちゃらんぽらんクラスに入れたのか。

だがそれはすぐにわかった。


「おめーに授業サボられても学校辞められてもそそのかしたのは坂田先生ですかって俺が責められるのがオチだよ」
「なるほど」
「よし、わかったか?」
「はい!つまり私は授業をサボることなく学校を辞めることなく坂田先生とお付き合いすればいいんですね」
「肝心なとこがわかってねーよ」


参った。どうしよう。猿飛みてーにアホな生徒なら他の先生方からの目はそこまで気にならずに済むが白藤となるとそうはいかねんだよな。あーなんでこんなことに。


「沖田や土方」
「?」
「高杉はまあ危ねーから無しとして…あとズラとか」
「なんですか」
「中身はアホだが見た目だけは天下一品の奴らがいるだろ、Z組にはよ」
「見た目も中身も天下一品の坂田先生には誰も敵いませんよ!」
「……」


うーん、なんて素直でイイ子なんだ。でもそんなことに感心してる暇はないっつーかそろそろマジで校長とかに呼び出されるかもしれねーな俺。いくらグダグダな銀魂高校っつってもいい加減ヤバい。


「白藤」
「はい」
「お前は我慢という言葉を知っているか」
「もちろん」
「いいか、これからは我慢しろ」
「何をですか?」
「俺を好きなこと」


そう言ったら白藤はあからさまに嫌そうな顔をした。眉間にシワを寄せ、不満をたっぷり俺に伝えてくる。


「どうして」


嫌だとか思ったことを言わず、とりあえず理由から聞くところは白藤らしくて俺は好きだ。


「高校卒業するまででいい、それまでは我慢してくれ」
「それは先生が私を好きだから?」


本当に賢い生徒だよ、まったく。


「…さァな」
「わかりました。坂田先生を信じて卒業までは待ちましょう。ただし、その間にあやめちゃんと浮気したりしないでくださいよ」
「へーへー」


しゃーねぇ、生徒の夢を叶えるのも教師(おれ)の役目だ。



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120107//あの子の進路
つまり坂田先生が好きなんだよ。

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