『臨也、好きだよ』
「うん」
『好き、』
「俺も好きだよ」
『…愛してるよ』
「俺も愛してる」
そう言って、臨也はいつもの笑顔を浮かべながら私の頭を優しく撫でた。それに対して薄く笑うのも、いつもと同じだ。露わになった肩が寒くて真っ白なシーツを被り直す。
『……』
臨也が他の女の子のことも抱いてるの 私は知ってた。そして臨也が私のことを愛してないことも。
臨也は私みたいにバカじゃない。とっても賢いやつだから、香水の匂いを残すなんていうへまはしない。つまり、こいつは自分が他の女と寝てることに気付いてる私を見て楽しんでいるんだ。恋なんてない。愛なんてカスだ。こんな最低な男、今すぐに別れたい。なのに、それなのに、なんでこんなに好きなんだろう。
『臨也』
「ん?」
『……もう浮気、しないで』
「……」
『お願い……』
「…つばき」
『辛いの…、』
「大丈夫、俺は浮気なんてしてないよ」
あたかも本当に浮気してないかのように眉を下げ笑って言う臨也。うそつき。あんたの服についてるその甘ったるい匂いはなに。あんたのベッドに落ちてた長い茶色の髪はなに。あんたの背中に残っている爪の痕は、なに。
そうやって バカな私にでもわかるような策を仕掛けて
よかったね あんたの思惑通りだよ
「バカだなぁ」
…どうせバカだよ
『…いざ、や』
「何?」
『私…臨也と、別れたくない……』
「俺も」
ぎゅう、と臨也が私の体を優しく抱きしめる。本当に大切なものを壊さないように包み込むような、優しく優しく抱きしめられる。
どうしてかわからないけど 私は泣きたくなった
『…泥沼ね』
どうしようないくらい好きになったのは私。なんで嫌いになれないの。臨也なんて嫌い、嫌い、嫌い。大嫌い。浮気するし女癖悪いし最低だし嘘つきだし私のこと愛してないし。
でも、でも。そんなのに負けないくらい好き、好き、好き。大好き。浮気したって女癖が悪くたって最低だって嘘つきだって私のこと愛してなくたって、臨也のことが大好き。
『…臨也、好き』
「うん。俺も。だから泣かないで」
『っ……ん、』
あんたと付き合ってる限り 涙は枯れそうにないよ。
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120322//あなたは私に辛いという感情しか抱かせてはくれない
たまには悲しいのも