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「つばきー」
『ん…なんですか』
「ひまー」
『暇って言われても…私は今忙しいです』
「さっきからずーっと本読んでる」
『続き気になるんですよ…』
「ひまーひまーあそぼー」
『っ、うるさい!神威先輩の相手なら阿伏兎先輩がいるでしょう!』


神威先輩はワガママだ。何かと後輩の私にちょっかいかけてきては、こんなふうに邪魔をしてくる。正直、うっとうしい。


「阿伏兎はいまダメ」
『私もダメです!』
「本読んでるだけじゃないか」
『(イライラ)』
「あ、イライラしてる?」
『してる!』
「あはは」
『………』


神威先輩と一緒にいるとイライラすることが多い。どんなに冷めた視線を送ったって、あの憎たらしい笑顔でさらっと流してしまうのだ。


「つばき」
『何ですか』
「キスしていい?」
『ダメ』
「なんで」
『…学校だからです』
「つれないなぁ。学校だからいいんじゃないか」
『意味わかりません!』
「…じゃあせめてほっぺに」
『いや』
「…したい」
『むり』
「しーたーいー」
『ちょっ、ゆら、揺らさないで…!』
「じゃあキスさせて?」
『……』


神威先輩の笑顔にはいつだって勝てない。ちょっと甘えられたら、ほら、簡単に大好きな本から手を離してしまうんだもん。


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「見えない臓器の名前は」
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