▼ 可愛いだけじゃ
『友達でいたい』
なんでフったのって、そりゃあ好きじゃなかったからでしょ。あ、誤解を招くようだから言っとくけど友達としては好きだったよ?所謂ライクってやつですね。いやほんと、ちゃんと好きだったって。ただどう考えても友達以上になるような関係じゃなかった。"そーゆー目"で見たことが一度もない。だから付き合わなかったの。付き合ってみてから始まる恋もあるって?あーあーまったく月並みだけどね友人よ、そんなことしたってあたしの気持ちは変わらないしお試しみたいなことは相手にも悪いでしょ?お互い時間の浪費だ。…え?相手がそれを望むなら?オーケー?ばっか、オーケーなわけないじゃん。そんなん結果見えてるよミエミエだよ女子高生のパンツぐらいミエミエさ( あたしも女子高生だけど )。結局好きになれなくてサヨナラ。そんなことになるくらいならはじめっからなんもせず終わる方がマシ。わかったらあたしのことはいいから、あんたは自分の彼氏の浮気調査でもしてな。
「もったいないよ、私よりつばきモテるのに」
『あんたがどんくらいモテるのかわかんねーべ』
「何がいいんだろう。やっぱり顔かな」
成績は飛び抜けてフツーだけど、顔とスタイルは飛び抜けて良いんですよあたし。いやまじで。告白された回数は数知れず、クラス替えをしたら必ず派手な男の子たちがあたしのことを囲んだ。白藤つばきは○組だ、なんて噂もすぐに流れ、地味な男の子たちはあたしが1人になるときを狙って何度も話しかけてきた。…ん?自分で自分を可愛いって言うやつにロクなやつはいないって?それかそこまで可愛くない、って?…ふむ、でもさあちょっとそこの君も考えてみなよ。たとえばここにとっても可愛い女の子Aちゃんがいるとしよう。そしてこれまたAちゃんに勝るとも劣らない可愛いBちゃんがいる。AちゃんはBちゃんを可愛いと思ってるんだ、つまらないお世辞なんかじゃなく心から。事実Bちゃんは可愛いからね、Aちゃんの美的センスは間違ってないんだろう。…さて、ここだ。Aちゃんの美的センスは正確なのが証明されたでしょ?ってことは、鏡の中の自分を見て『可愛い』と思うことは当然なんじゃないの?可愛い子を可愛いと判断できる目があるなら、Aち ゃん自身が可愛いと気付いてもおかしな話じゃない。…あたしの言いたいことわかったかな? つまりあたしがあたしのことを可愛いって言ったって別にロクなやつじゃないわけじゃないし、そこまで可愛くないわけでもないってこと。
「あ、つばき。…来るよ」
『…!…、…ん』
でも。でもさあ。だけどさあ。いくらたくさんの男に告白されようと、いくらたくさんの男に優しくされようと、あたしの心はこれっっっっぽっちも動かないんだよね。だってあたしには心に決めた人がいるから。好きなの、好きなの。大好きなの。…それなのにあの人はあたしのことをまったく見てくれない。当然といえば当然だ、喋ったこともないんだから。今まで見てくれだけで告白してきた男たちとは根っこの部分から違うんです。向こうはあたしのこと知らないけど、あたしは知ってるよ。優しい人なの。いつも素敵な笑顔で、声だって優しくて、女の子にはたいそうモテるでしょう。
「英語の予習やった?」 「やったよ」 「やーりぃ!見せて!」 「たまには自分でやってきたら?」
『……( やば、すれ違う )』
ドキドキドキドキドキドキドキドキうるさいなもう!ちょっと静かにしてて会話が聞こえないじゃない!
「…お、つばきちゃんだ」
ぎやあああそこの名前もわからぬ彼の友人ナイス!あたしの名前だしてくれてありがとう!普段ならうっとうしいだけの行為がすごくありがたいよ!こ、これで彼も少しはあたしのこと見てくれるかな?ほんの少しでもあたしを見て、くれるかな。
「あー、あんまり興味ないかも」
え。
「へえ、人間好きな折原がそんなん言うなんてめっずらしー。つばきちゃんだぜ?めちゃめちゃ可愛いじゃねーか」 「はは」
うっ、わ。横で友達が呟いた。あたしは言葉もでない。つーか、お兄さんたち。聞こえてるよその声。人のことどうこう言うのは勝手だけどさ、せめてあたしともっと離れてから言ってほしかった。サイアク。ああもうやっぱりあたしはツイてない。好きになってくれる人はたくさんいるのに、肝心なとこで興味を示してもらえないんだ。神様はさ、あたしが生まれるときにとびきり可愛い子にしてやるってことで人生の運をすべて使っちゃったんだね。あーあーあー、こんな顔いらないからせめて彼に、折原くんにちょっとくらい興味を持ってもらいたいです。
────────── 120428//可愛いだけじゃ
|