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幾本もの花を君に


『はっぴーばーすでいです、折原さん!』
「…ああ、ありがとう」


どこから誕生日を嗅ぎつけたのか彼女は恥ずかしいくらい大きな花束を片手に(決して片手ではないけれど)俺の前に現れた。誕生日を知られたことくらい別に驚くことじゃないし隠してたつもりもないけどこいつの場合少し話が違っていて色々言いたいことはあるがまあ簡潔に言うと至極めんどくさいのだ。誕生日を祝ってもらうことに不満はないけど喜びもない、でも彼女、白藤つばきからの祝いにはどこか腹が立つ。どうしてだろう、ハッピーバースデーの発音がやたら悪いからかな。


『どうぞ』


ぼふっと妙な効果音がした。嘘じゃない。つばきちゃんが花束を俺に差し出しただけで巨大なそれは音を立てた。…こんな池袋の人通りの中どうやって花を崩さずここまで持ってきたのか少し気になるな。ってか本気でこんなでかい花束を俺に渡す気?こんなとこで?笑顔が決して冗談とは言っていない。とんでもない子だな。とりあえず俺は適当に笑って受け取った。ウチに帰ったらすぐに捨てよう。


「どうも」
『実は折原さんが誕生日って知ったのが昨日で…こんなものしか用意できませんでした。ごめんなさい!私のリサーチ不足です!』


いやいや十分だよこれで。十分すぎてうっとうしいくらい。この上ウエディングケーキとか持ってこられたら本気で俺は引きそうだ。でもつばきちゃんならやりかねないんだよねぇ。


『以前から知っていたらウエディングケーキと婚姻指輪用意してたんですけど…』
「……」


俺の想像の上を行くつばきちゃん。恐ろしい子だ。…出会いはいつだっけ。えーと確か……ああそうだ、気まぐれでナンパされてるとこを助けたんだった。あの時助けなかったらこんなに付きまとわれることもなかったのに、あの日の俺が少し憎い。


『折原さん折原さん』
「なに?」
『今"あの日助けなきゃなー"って思ったでしょ』
「…エスパー?」
『無駄ですよう。あの日あの時折原さんが私を助けなくたって私たちは必ず出会って、そして私は折原さんのこと好きになってましたよ』
「まるで運命みたいに言うんだね、君は」
『いいえ、決定事項です』
「それならその決定事項にひとつ加えておいて。俺がつばきちゃんを好きになることはない」
『残念ながら折原さんが私を好きになるのは既に決定事項に入っています。変えられませんよ二度と』


人は彼女を気味が悪いと避けるだろうか。理不尽な物言いに腹を立て声を荒げるだろうか。それでもかまわない。俺はつばきちゃんという人間に興味がある。蔑まれた時の彼女を見てみたい。


「つばきちゃん」
『はい』
「この花、造花?」
『いいえ』
「今度からは造花にしてね。…枯れるのやだから」
『…お、折原さんかわいい』
「…なにが」


まあ、なんでもいいか。彼女が俺のことを大好きすぎておかしくなったこともあり得ないくらいでかい花束を渡されたこともなんだか無性につばきちゃんが可愛く見えるのもどうでもいい。ただ俺はこの幾本もの花が枯れてしまわぬことを願うばっかりだった。


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120504//幾本もの花を君に
臨也さんhappy birthday!3


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