お昼休み、彼氏の大輝くんからメールが届いた。普段どちらかというと電話が多い彼からのメールに少し心が躍ってそれを開くと、大輝くんらしい短文がひとつ。
《今から屋上来い》
何か用でもあるんだろうか?まあ、今は別に断る理由もないしわたしは大輝くんにわかったと返信してから一緒にいた友達に事情(と言えるほど大げさなものじゃないけど)を伝え屋上に向かった。
階段を一番上まで上って、重たい扉を開ける。隙間からは眩しい光が射し込んできた。錆びた音は未だに聞き慣れない。風になびくスカートと髪を押さえつつ呼び出した本人を探したら、すぐに見つけることができたのはいいが…えっと。
「あ、来たんじゃないっスか?」
「んあ?」
「紫原、お前また箸の持ち方を…」
「うるさー」
「おい黒子、その飲み物を少しくれ」
「どうぞ赤司くん」
この状況は、何?
屋上にいたのは大輝くんだけじゃなくて、わたしに背を向けて座る彼とその周囲の人物で円を描くようにして座っている。みんなお昼ご飯を食べてるらしい。ってかこれって帝光(うち)のバスケ部レギュラー勢揃いなんじゃ…?帰宅部のわたしでも知ってる、帝光のバスケ部レギュラーはかなり有名で、大輝くんもその中の一人(っていうか一応エースらしい)で、わたしはこの豪華キャストに目を見張った。そして体も固まった。黄瀬くんに、緑間くん、紫原くん、赤司くん、黒子くん。緑間くんは同じクラスで数回喋ったことはあって、あと黒子くんも何度か話したことがあるけどそれ以外の皆さんはまったく関わったことがない。う、うわぁ、なんだコレ。
「こっち来いよ」
『え、あ。うん……いいの?』
「は?当たり前だろ。つーかわりーな、いきなり呼んで」
『う、ううん…』
大輝くんはパンを頬張りつつ手招きして自らの隣にわたしを座らせた。ええ、この円の中にわたしが入ってもいいのだろうか…?畏縮して思わず正座になってしまう。右隣の大輝くんのカーディガンに包まれた腕を掴む。大輝くんとは反対側、左隣には黄瀬くんが座ってて彼からの異常な眼差しに耐えられないのだ。ど、どんだけ見つめるのさこの子!
「さすが青峰っち、いい趣味してるっスねー」
『(シュミ…?)』
「青木だったのか」
『(なにが…?)』
「誰?なんかちっさくね?」
『(あ、あなたが大きすぎるのでは…?)』
「青木さん、お久しぶりです」
『あ、うん!久しぶり黒子くん』
「ふーん。君が、青峰のねぇ」
『(ぎゃーなんなの!!)』
みんなからの痛いほどの視線にわたしはさらにいっそう体を縮こまらせる。ぎゅうと彼の腕に抱きつくと頭をポンポンと撫でてくれた。
『大輝くん、なんなの、これ… 』
「こいつらがさぁ、どうしてもオレの彼女見たいっつーから」
『…えっ』
「んで、こいつがオレの彼女。青木桃花。オレと緑間と同じクラス」
「よろしくっス!」
『え、あ、はい』
黄瀬くんは手を差し出してきて、握手だろうかとわたしも恐る恐る差し出すとぎゅっと握りしめられブンブンと振られた。さすがモデルさんだ、笑顔が輝いてるというか周りに光の粒子てきなものが飛んでる。
「青木、あまり青峰を甘やかすなよ」
『あ、うん…はい』
「お菓子好き?」
『す、すきです』
「青峰君にワガママ言われてませんか。もし言われてるのならそういうときはアイスを背中から入れればいいですよ」
『あ、ありがとう?』
なんだろう、なんかみんな意外とふつう?いや、ふつうじゃないけど、思ったより変な人たちじゃないっていうか、なんとなく有名すぎて関わりにくい感じだったんだけど…って、あ、赤司くんと目合っちゃったよ!うわあ、さすが部長さんだなぁ、なんていうかオーラ?まとってる空気がすごいもん。
「青峰はバカだから、なんとかしてやってくれ」
『……で、できるかぎりは頑張ります…』
ふつうだ。ふつうに部員の成績を心配する部長だった。大輝くんは隣でそんなこと言われてるのも気にせず焼きそばパンを食べている。ああ、なんか緊張したらのど乾いちゃったなぁ…。手のひらでパタパタと顔をあおぎながらそんなこと考えてたら大輝くんが横からパックのカフェオレを差し出してきた。
「のど乾いてんだろ?やる」
『なんでわかったの?』
「顔あおぐから」
『(…そんなクセ知らなかった)ありがとう、大輝くん』
「ん」
ちゅーっと飲むと甘めのカフェオレの味がした。黄瀬くんは「あー!うらやましい!オレも彼女欲しいっス!」なんて空に向かって叫び、緑間くんはラッキーアイテムを磨き、紫原くんはお菓子をむさぼり黒子くんは読書赤司くんは将棋のコマで遊んでて、なんだか平和な昼下がりだなぁと思った。
『大輝くん、おいしい?』
「おう」
幸せってたぶん、こういうの。
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120923//青峰が彼女をキセキに紹介
◎ミイさま
はじめましてミイさま、わたし唄と申します!
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
黄瀬が彼女をキセキに紹介するお話同様、とても楽しんで書けました!
青峰は黄瀬ほど干渉しないタイプかなーとか!
このたびは本当にありがとうございました!