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膝小僧にキスしてハニー

修学旅行マジックという言葉をご存知だろうか。
修学旅行という非日常の中で高校生たちは浮き足立ち、ある種の胸の高揚を感じる。そしてなんらかの不思議な力が作用してカップルが続出するのだ。一組成立すればまた一組成立し、やがて「みんなが恋人作るなら…」と連鎖していく。もし日常の真ん中で告白されてたらフるかもしれない相手なのになんだか良く見えちゃって、オーケーしてしまうのだ。別名「吊り橋効果」とも言う。

だがそういうなあなあで付き合ったカップルはすぐに別れるというのも、ある意味修学旅行マジックだろう。


「青木さん、あの、ごめん。いきなり呼び出して」

『平気です』

「実は前から青木さんのこといいなって思ってたんだ」

『はあ』

「せっかくの修学旅行だし、思い切って告白しようかと思って…」

『はあ』

「…?え、えと、だから、好きです。俺と付き合ってください!」

『ごめんなさい』

「えっ」

『ごめんなさい』


もちろん私はそこまでバカではないので、そんなチープなマジックごときにはまったりなんかしない。


▼▼▼


「はあ って。君は相変わらず冷たいねぇ、桃花ちゃん」

『……』

「それとも何?告白されたことが嬉しくての照れ隠しなのかな?」

『ねえ折原、前から思ってたけど桃花ちゃんってなれなれしいよ』

「じゃあなんて呼べばいいの?」

『ねえ とか』

「名前すら呼ばせてくれないとか」


ホテルにある自販機のそばの長いすに腰掛ける私の横に、さっき突然現れた折原も並ぶ。さっき告白してきた彼がいなくなった直後、まるで見計らったかのようなタイミングで「やあ、奇遇だね。桃花ちゃんもジュース買いにきたの?」って。その胡散臭い笑顔というかなんというか。私はもともと折原が苦手だった。取って付けたような笑顔や、あのなんでも見透かすようなマゼンダの瞳。


「桃花ちゃんも"修学旅行マジック"とやらに乗っかると思ったんだけどなぁ」

『あっそ』

「つまんない、ああほんとにつまんないよ」

『自分が乗っかればいいんじゃないの』

「俺が?まさか!そんなのなんにも楽しくないじゃないか」


何がしたいんだろ コイツ。ま、折原が他人の告白現場見て楽しむ悪趣味な奴でも私はどうでもいいのでそろそろ退散しようかな。
適当に折原の言葉を流し長いすから立ち上がると、手首を掴まれた。振り向くと折原が掴んでいて、何、と睨む。けどまったく怯まなくてそれどころか手首を引っ張ってきたので私は再び腰掛ける形となった。


『…用あるの?』

「うーん、これと言ってないかな」

『じゃあ帰る』

「ちょっと待ちなよ」

『いや、もういい帰る』

「ごめんごめん、用ならあるよちゃんと」

『なら早く』

「ん」


……………。


『か え る よ』

「はは、ごめんごめん。ねえ桃花ちゃん、俺と付き合わない?」

『ごめんなさい』

「わ、即答」

『ごめんなさい。それじゃあ』


立ち上がり、今度こそ私はその場から離れた。耐えられなかったのだ、折原の冗談に決まっている言葉に。

ホテルの部屋に戻るとき、自分の熱い顔を隠すように手の甲を口元に押し付けた。これだから折原は苦手なんだ。あの取って付けたような笑顔や、なんでも見透かすようなマゼンダの瞳。きっと今頃私が顔を赤くさせてることも見抜いてるに違いない。


「けっこー本気だったんだけどねぇ」


長いすでコーラを飲みながら折原がそんなことをぽつりと呟いたことを、私は知らない。


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120922//膝小僧にキスしてハニー

◎本宮さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
なんだか修学旅行があんまり関係ない話になってしまって、申し訳ないですごめんなさい(>_<)
わー、それにしても自分のことのように40万打を喜んでくれて嬉しいです!
ツイッターでもサイトでも、これからもよろしくお願いします(*´▽`*)
このたびは本当にありがとうございました!


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