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図書室で綴る愛の歌

「あの、青木さん」
『え?…う、わぁっ!』
「驚かせてすいません…あの、これ落としたので」
『あ…キーホルダー…、ありがとう、えっと…(名前呼ばれたし知ってる子…?)』
「いえ」



あの時、わたしは確かに恋を覚えた。名前はおろか、同じクラスということさえもわからなかった自分が情けない。黒子テツヤ、よく見たらクラスにいた。非常に影が薄く、ひっそりと毎日を過ごしていた。きちんと仕事をこなしたりだけどその存在感の無さを利用して授業中眠る姿を発見したときは可愛すぎて悶絶しそうになった。


…しかし、同じクラスだというのに私はまったく彼と仲良くなれないでいた。本当に困ったことに好きになってしまうと私は何も喋れない。ありがちな話だろう、緊張して話せなくなるなんて。というわけで私は黒子くんが図書委員として図書室の管理をしている時は毎回図書室に通っていた。なんとか話しかける機会はないかと伺ってはいるが、未だに声を掛けれたことはない。一度もだ。


『(…本好きだよなぁ)』


今日も今日とて放課後図書室に通っている私は図書委員のいるカウンターからは少し離れたところから今手に持つ文庫本越しに彼を見ていた。黒子くんは本当に本が好きでいつも本を読んでいた。今時本好きで図書委員になるなんて珍しい。そんなところも好きだったりする。


「テツくーん!」


高い声が静かな空間に広がる。入り口を見れば帝光中の有名人が2人いた。


「ちょ、桃っち声でかいっスよ!」
「あっ」
「黄瀬君もうるさいです」
「えっ」
「テツくんテツくん、今日は部活お休みなんだってさー!」
「え、そうなんですか?」
「なんか体育館も外も使えないらしいんスよ」
「へえ」


桃井さつきと黄瀬涼太。
帝光中のバスケ部レギュラーとマネージャーだ。2人そろって中学生とは到底思えない美貌を持っていて、彼らは眩しくて仕方ない。カウンター周りに集うピンクと黄色。…特に、桃色の彼女。あの子はきっと黒子くんのことが好きなんだろう。あんなに綺麗な子から可愛い笑顔向けられて、恋愛に無頓着そうな黒子くんでも好意を持たないわけがない。


『……はぁー…』


テーブルにぐてんと体を倒した。遠くから聞こえてくる三人の声を聞きたくない。華やかな声を聞くだけで、黒子くんとの世界の違いを感じて嫌になる。私は現実から逃げるように、目の前の世界を遮断した。そっと目を閉じたのだ。













「……さん」

「…さん」


「青木さん」
『(ビクッ)……え、』


ぐっと現実に引き戻されて、私は目が覚めた。いつの間にか寝てたようだ。図書室で寝るのって初めてだけど…意外と気持ちいい。寝やすかったんだけど。いまだにはっきりしない頭で、視界いっぱいに広がるつぶらな瞳がやけに綺麗だなんて考える。その瞳の持ち主が黒子くんだとわかったとき、私は勢いよく立ち上がった。ガタガタっとうるさい音がして周りを見渡すがオレンジに染まった広い空間には私たち以外誰もいなかった。


『……く、黒子くん…?』
「すいません、気持ちよさそうに寝てたからしばらくはそっとしてたんですが…さっき先生が来てしまって」
『…先生……?』
「閉館です」


えっと、つまり?
閉館の時間になってたけど、私が気持ちよさそうに寝てたからそのままにしておいてくれて、でもさっき先生が来たから起こしてくれたの?…な、何それときめく。やばい胸がドキドキ鳴ってるよ、こんなの初めてってくらいうるさくて、顔が熱い。


『…ご、ごめんね、なんか…えっと…時間取っちゃって!』
「いえ」
『部活休みだったんでしょ?あ、遊びにいったりしたかったんじゃ…』
「今日は本の続きが気になってたんで、ちょうどよかったんです」


決してにこっと笑うわけではないけど、優しく笑う彼の笑顔がどうしようもなく好きだと思った。黒子くんの性格を表したような笑顔と言ってもいい。


「それから、これ」
『え?』


もじもじする私に黒子くんが一冊の本を差し出す。それを受け取ると、見たこともないタイトル。


「青木さん、いつも推理小説読んでますよね?それ、この前ボクが読んだんですが面白かったのでよかったら」
『……!!』
「迷惑だったらごめんなさい」
『迷惑じゃない!!ありがとう!すっごく嬉しいよ!』


図書室に通っててよかった。たいして興味もなく推理小説を手にとって適当に読んでいたけど、この本ならきちんと楽しめそうな気がする。そして読み終わったときは一緒に感想を語り合えたらなぁ、なんて。


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121231//図書室で綴る愛の歌

◎寿鶴さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
黒子くんを書くのは何気に楽しくて、この設定ものりのりで書かせていただきましたー!(*´▽`*)
図書委員黒子くんとの恋、楽しかったです!
これからも当サイトをよろしくお願いします。
それでは、本当にありがとうございました!


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