「折原くん、ハイ。賞貰えたのあなただけなのに、それが最優秀賞なんてすごいわ。おめでとう」
折原臨也12歳。小学校六年生。放課後、職員室に来るようにと担任に言われた。その言葉に従って行ってみると薄っぺらい紙が差し出される。最優秀賞…あぁ、夏休みの読書感想文か。そういえばそんなこと言われたな。俺は担任から賞を受け取り職員室を出た。
読書感想文と言えば、確か桃花がとりたいと言っていたような…。忘れてしまったが今回は感想文に全力を注いだと騒いでいた気がする。
今日は桃花は先に帰ってしまったので偶然会った友人と帰り道をたどりながらそんなことをぼんやり考えていた。もちろんたいした興味はわかず、適当に「まぁいっか」で片づけた。これが後々めんどくさい事件を巻き起こすとも知らず──…
♂♀
「…なんで拗ねてるの」
家に帰ってみればいつの間にかランドセルから変わっていたリュックをソファーの下に落とす桃花がいた。当の本人はソファーにうつ伏せで寝ころんでいるが。こういう時はだいたいが拗ねてるので面倒だからスルーするのが正解。ほっとけばそのうち機嫌なんてなおる。主にお菓子で。だけど俺がプリンを食べていても何も言ってこないし、少し心配になってしまった。
だから問い掛けたのに、返事は無い。
「桃花?」
ソファーに寝ころぶ桃花は何も言わない。呼吸のためにほんの少し背中が上下するくらいだ。
「おい。理由言わないとわからないんだけど」
『………が』
「え?」
『…いざや、』
「何」
『…さっき職員室で…何してたの』
「は?……あ。」
そこで俺はわかってしまった。桃花は拗ねてるんだ。自分が読書感想文の最優秀賞を取れなかったことに。これは面倒なことになった、と眉間にシワを寄せる。オレンジジュースを飲みながらどう対処しようか考えたが、いまいち思いつかない。
『…私、夏休みの宿題全然できなかつたの。最後の方臨也に手伝ってもらって、正直私がやったとこなんて超適当に書いたし』
「うん」
『でも…でも!読書感想文だけは!!真面目にやったのぉー!!』
「うん」
『絶対臨也よりいい賞とってやろうって、真剣に真剣に考えて…考えすぎてネットに頼ろうと思ったくらい』
「オイ」
『でもそれでも自力で!頑張ったのに……結局いつも臨也じゃん!臨也のバカァ!』
桃花が怒鳴りながら(てか泣きながら?)そう言って俺にクッションを投げつけてきた。突然のことに反応できず、俺はそれをまともに喰らった。もちろんそれだけなら心優しい俺は怒ったりしない。…が、オレンジジュースがこぼれて俺の服にかかったとなれば話は別だ。
「………」
『ふんっ』
ふ ん ?
人にクッション投げといて、それも理不尽な理由で、それでいて間接的とは言え俺にオレンジジュースかけて、何その態度。カチンときた俺は立ち上がって桃花のもとまで行く。そしてそのまま掴んでいたクッションを思い切り顔面に向かって投げつける。至近距離だから当然避けられず、桃花はばふっと音を立てた。
「言っとくけど、お前が悪いから」
『………』
俯いたまま黙る桃花。それを見下ろす俺。そんな状態が30秒ほど続き、やがてしびれを切らしたのはコイツだ。ソファーから飛び上がり思い切り俺に襲いかかってきた。その重さにたえられず俺は桃花を体に乗せた形で床に倒れてしまった。
『臨也のバカ!バーカ!』
そう言ってヤケクソのように殴りかかる桃花。何度も殴ってくるこの片割れに俺も頭に来てるので殴り返した。別に殴ることは初めてでもなんでもないのでなんの躊躇いもない。そんなに多くはないが今までだってこんな喧嘩はしてきてし、そのたびにほぼ互角だったから。
ボカッ
『いたっ』
……互角、だった、のに。
『っ……』
「え…」
俺が殴り返せば、桃花は痛みに顔を歪めた。こんな顔初めてで戸惑う。だって、え、なんで。嫌な予感がした。俺は桃花の腕を掴み、そのまま力任せに体を反転させる。するといとも簡単に桃花が床に寝ころび、その上に俺が座る形になった。
「……………」
──この時俺は決めたんだ。もう一生、どんなにムカついてもどんなことがあっても、桃花を本気で殴らないと。
『…いざや…?』
「……ごめん」
『え』
「痛かった?ごめんな」
桃花の赤く腫れた頬に手を添え、謝るとこれでもかってほど目を見開かれる。そりゃ、殴ってからこんな風に謝ることなんてなかったしな。
『ど、どうしちゃったの臨也…』
「…別に。喧嘩やめよ、ジュース入れてあげるから」
『……?う、うん…』
俺と桃花は双子だけど当たり前のように同じ人間じゃない。性別さえも違う。そして桃花が女で俺が男に生まれた意味は、世界一大切なこいつを傷つけるためなんかじゃなく守るためだとこの時になって初めて気付いたのだった。
この意味は、いくつになっても忘れない。
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121228//生まれた意味
◎はとさま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
双子ラプソディーの番外編ということで、とりあえず力の差について説明したお話だけ読み返したのですが、ちゃんと書けているでしょうか…!
壁にパンチして穴の案、やろうと思ったのですが小6でそんなのできるなんてどうしてもシズちゃんでしか想像できなくて…断念…すいませんorz
はとさまは、いつもリアルとか更新したお話に感想くださって、そして必ず返信不要です と書いていますね。
ものすっごく返信したくなるようなこと拍手コメントに書いといてそれはずるいよ〜(笑)とか思いながら読んでるのですが、時に「返信不要です」の言葉がどれだけわたしを救ってくれるか わかりますか!(笑)
ほんとに、はとさまにはずっとお礼言わなきゃなーって、でも相変わらず拍手コメントの最後には返信不要ですの言葉…(笑)
だからこの40万打企画に乗じて言わせていただきます、いつもありがとうございます!
はとさまの拍手コメント本当に大好きです。すっごく嬉しいものばかりです。携帯メールなら間違いなく保護してます。
とにかく、言いたいことがめちゃめちゃですが…これからもよろしくお願いします(*´▽`*)
それでは、このたびは本当にありがとうこざいました!