「本当に君が?」
『しつこいなぁ、何回聞くのよ』
何度だって聞くさ。だって君、まだ子供じゃないか。
心の中で動揺しつつも表には出さないよう、俺は彼女との間にある低いテーブルの上からウーロン茶を取り喉を潤した。もう一度見てもやはり彼女は子供だった。しかしあまり子供子供と言うと誤解を招かれるかもしれないから言っておくが高校生だ。小学生とかじゃない。ただ、彼女がある生業に就いてるが故にどうしても子供と言ってしまうのだ。
ハッカー。
ハッカーとは本来コンピュータやネットワークに精通した人のことだが、今や日本ではクラッカーと同じ意味として使われている。つまり、破壊を目的にコンピュータシステムに侵入し、破壊行為を行う者というわけだ。
俺も情報屋をやっていて何人かのハッカーと顔を合わせたことはあるが、これほどまでに若い奴は初めてだ。どこからどう見てもふつうの女子高生。短いスカートも無難な色のカーディガンもよれたスクールバッグも履き慣らしたローファーも。
彼女が本当に、最近数多くの大手企業を困らせていると裏で噂のハッカーなんだろうか?未だに俺は信じられないよ。だって九瑠璃や舞琉よりひとつだけ年上の女の子がハッキングなんてそんなバカな。
「ハッキングは全部君ひとりで?」
『うん』
「じゃあ個人営業なわけだ」
『まあね』
「なんでこんなことするのか聞いてもいいかな」
『教えろって顔してるけどね』
つーかこのガキなんで敬語使わないんだろうねぇ。
鼻歌歌いながら細い指でストローを弄びつつ『なんでって言われても、お金欲しい以外なくない?』なんて当然のように言ってのけるんだから最近の子は怖い。
「アルバイトならたくさんあると思うけど」
『これだってバイトみたいなもんだよ。ただ、わりのいいバイトがしたかったの。まさか女子高生の清らかな身体売るようなことはしたくなかったし、だったらもうコンピューター系はちょっぴり得意だしそれを仕事にすればいいやって』
何がちょっぴりだ。ちょっぴり得意なだけじゃ大手企業のコンピュータシステムに簡単に侵入して一切の痕跡も残さず消えたりできない。かなりのやり手で、それも熟練のおっさんみたいなやつが来るかと思ってたんだけど……
やっぱり、人間っておもしろい。
どこまでも俺の期待を裏切らないよ。
「ねえ、俺からひとつ忠告してあげよう」
『なーに?』
「君みたいなガキが個人営業したらいくら腕が良くてもすぐに潰れるさ。いや、潰される。世間の裏には怖い人たちがいっぱいいるからね」
きっとそのうち粟楠会からも目を付けられることになるだろう。下手したらもうすでに付けられてる可能性だって捨てきれない。そうすればこんなガキ1人、すぐに終わってしまう。
それはもったいない。彼女は逸材だ。天才と呼ぶに相応しい。
『何が言いたいの?お兄さん』
「簡単だ。俺の仲間にならない?」
『え?』
「俺が君を雇う。このまま潰されるには惜しすぎる人材をみすみすと見逃すわけにはいかない」
『ふうん』
「どう?悪い話じゃないと思うけど」
『そうだなぁ。お兄さん敵にしたら厄介そうだし、いいよ』
ずいぶんあっさりした返事で少し拍子抜けだ。まあ、いい。優秀すぎるハッカーを獲得したのは大きい。
「じゃあよろしくね、桃花ちゃん」
『こちらこそ、臨也さん』
ここから始まる 俺と君の生活。きっと素晴らしいものを見せてあげることを誓おう。
「(いざとなればこの子の情報売ればいいか)」
『(いざとなったらこいつのパソコンハッキングしてやればいいや)』
ま、最初は探り合いからで。
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121103//探り合いの愛
◎叶亜さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
いつも楽しんでくださってるみたいで嬉しいです(*´▽`*)
ハッカー少女を引き抜くお話なんだからハッカー少女はどこかに属していた方がよかったのですが、わたしの文才と構想力の無さから個人営業になりましたごめんなさい…。
でも初ハッカー少女なので楽しかったです!
応援並びにこのたびは本当にありがとうございました!