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今世紀最大心拍数

放課後の教室が好きだ。それも生徒みんなが部活へ行ったり家に帰ったりと、誰もいなくなってからの教室が。外から聞こえてくる運動部のランニング中の掛け声とか、時折廊下から聞こえてくる明るい女の子たちの話し声とか、そして何よりオレンジ色に染まるところとか。そういったものがいろいろ集まって、わたしは放課後の誰もいない教室が好きだった。

好きと言ってもひとりでずっと用もないのに残るのはさすがに変人だと思う。だから普段オレンジ色に染まる時間帯まで残ることはないのだけど、今日は別で委員会が長引いてしまい教室に戻った頃にはすでに夕方だった。わたしの好きな状況にめぐり合い、思わず少し席について時を過ごしてしまう。しっかりと堪能して、そろそろ帰ろうかと腰を持ち上げようとしたところで教室の前扉が開いた。


「あっれ、何してんのー」


高尾くんだ。
高尾和成。秀徳のバスケ部レギュラーで、クラスの人気者。いつも人に囲まれてる男の子。わたしはあまり喋ったこと、ないけど。


『委員会が長引いたの。これから帰るとこ』

「ふーん。お疲れサマ」

『どうも。高尾くんは?』

「これから帰り。部活今日は早く終わったんだよ。なんか体育館使えねぇとかで」

『あ、そうなんだ』


頭の後ろで手を組み、そうそうーなんて軽く言いながら高尾くんが近づいてくる。疑問に思いつつ見ていたら「忘れ物しちゃった」なんて言って笑う彼。そっか、と言うと「帰んの?」って聞かれた。まあ、ハイ。見ての通りですが。


「せっかくだからもうちょっとしゃべろーぜ!あ、時間平気?」

『ええ!?わたしと!?』

「おう!あれ、まずかった?」

『い、いや、平気ですけど…』

「ははっ、なんで敬語?」

『………』


な、なんだこいつ。ぐいぐいくるなこいつ。わたし高尾くんとあんま喋ったことないんだけど…いやいいけどさ…いやそれにしたってほんと何この急展開…?
わたしの座る前の席に高尾くんは腰掛け、体をこっち側に向ける。


「青木ってさ、いつも何してんの?」

『いつも?』

「帰宅部だろ?家帰ってからとか」

『うーん…たまにマンガ読んだり遊んだり…でもだいたいはお昼寝かな』

「お…昼寝?」

『お昼寝しないと夜がすごく眠たいの』

「……」


高尾くんは目をまん丸にさせている。しかしやがて、吹き出して爆笑してしまった。いったい何がそんなにおもしろかったのか。


「おっ、おひ、お昼寝って…!くく、しょ、小学生かよお前!ぶはっ、あはははは!!!」

『………』


かああっと顔に熱が集まった。知らなかった。最近の高校生はお昼寝をしないのか!みんなよくもちますね、体力!わたしお昼寝しなかったら10時くらいに寝ちゃうけど!


「ひー、腹いてぇー…」

『……』

「あれ?拗ねちゃった?ごめんごめん!」

『……別に』

「まあまあ、そんな口尖らせんなって──よっ」

『あっ!』


突然高尾くんにわたしの眼鏡が奪われる。ちょっマジなんだこいつ!やめろ!これわたしじゃなかったら女子みんな君のこと好きになってるよ!?わたしはならないけどもね!

高尾くんはそのわたしからひったくった黒ぶち眼鏡をかけ、「わっ、きもちわる!」なんて物珍しそうに楽しんでる。


「よくこんなん掛けてられんなーお前」

『…高尾くんは目がいいんだね』

「んー…まあ、ちょっとな」

『なら早く外しなよ。ってか返して』

「どう?似合う?」


そう言って机に肘をつく高尾くんが首を軽く傾げ上目遣いがちにわたしを見てくるもんだから、何この子超可愛いんですけど。…む、胸が痛いですきゅんきゅんしちゃいます。ちくしょう騙されるなわたし!


『に、似合う……』

「へへっ。さんきゅ!」

『高尾くんさぁ…』

「ん?」

『あんまりこういうこと、しないほうがいいよ。……おせっかいかもしれないけど』

「…こういうことって?」

『えっ…だからこういう、えーと…なんか、思わせぶりな態度とか…?』

「青木はオレの態度、思わせぶりって思った?」

『す、少しね』

「…ふーん」


…あれれ、怒らせちゃったかな…。別に不機嫌にさせるために言ったわけじゃ…むしろ高尾くんを思ってなのに!


「青木、青木」

『なに?』

「眼鏡返すー」

『ああ、ありがと…』


高尾くんが眼鏡をわたしに直接掛けてくれようとしたから、わたしはお礼を言ってそれに従うことにした。けれど眼鏡が近づくにつれてクリアになる視界とともに、何かが近づいてきて。完全に眼鏡をかけたとき、わたしは高尾くんにキスされてた。両頬を彼の大きな手に包まれて、しっかり固定されたまま初めてのキス、を。


『た……高尾く…!?』

「…悪い」

『え、え、……え!?』

「でも、思わせぶりとかそんなんじゃなくて……誰にでもキス、すると思う?」


え、ちょっと待って。高尾くん、がわたしに、え、きす、ちゅう、した。


へ?


ガタッとイスから立ち上がって、高尾くんが教室から出ていこうとしたから慌てて声を掛ける。


『高尾くん!忘れ物、取ってないよ?』

「…忘れ物なんか、ねぇし」


え。


『(えええええ!?)』


や、やばいどうしたらいいの。ドキドキしてドキドキしてとまらない。胸が痛い!これってどうすればいいんですか!


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121029//今世紀最大心拍数

◎百合さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
わざわざ詳しくシチュエーションを送り直してくださって、すごく助かりました(*´▽`*)
しかも眼鏡奪う高尾くん、めちゃ書くの楽しかったです!個人的にすごく好きなネタです!(笑)
このたびは本当にありがとうございました!


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