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ときめけ

「……あれれ?」


それは授業中のことだった。いつものように球磨川先輩のことを考えていた時だった。
ふと思ったのだが、わたしって…球磨川先輩にときめいてもらったことってあるのだろうか?普段わたしばかり球磨川先輩にときめいていて好きだと感じている。それは付き合った今も変わらない。…だけど、球磨川先輩は。


「(ときめいたりしないのかなー…)」


もくもくと広がる空を見つめながら、わたしは決意した。球磨川先輩にときめいてもらおう計画の、始まりだ。


〜上目遣い〜


「球磨川せんぱーい」

「『あ』『桃花ちゃん』」

「あのねぇ、球磨川先輩ー」

「『うん』」

「えっとぉ〜…」


手を口元に寄せ、球磨川先輩を上目遣いで見上げる。けれど球磨川先輩は例のごとく可愛い笑顔でいるだけで、わたしなんかじゃ適わないという現実を思い知らされ完敗。


〜アヒル口〜


今流行りのアヒル口で挑戦することにした。確認はしてないけどなんとなくそんな感じの口作って球磨川先輩に話しかける。


「『何その口』『ひょっとこのモノマネ?』『うまいうまい!』」


あまりのブサイクさに惨敗。


〜お菓子〜


こうなったら女らしくいくしかない。わたしは家でお菓子を作ってきた。簡単なクッキーだが家庭的なアピールをするのにいいだろう。わたしは可愛らしくラッピングしたクッキーを握りしめ、球磨川先輩のもとへ向かった。


「球磨川せんぱー…あれ?」


生徒会室に行ったら誰もいなかった。球磨川先輩はおろか、めだかちゃんや人吉や高貴くんやもがなちゃんも。
みんなお仕事中かな?わたしはソファーに座り待つことにした。球磨川先輩、今度こそときめいてくれるかなぁ。


「『あれ?うわあっ!』『桃花ちゃんじゃないか!』『驚いたなもう』『どうしたの?』」


じゃっかん白々しくも、生徒会室にやってきた球磨川先輩が言う(驚く素振りつきだ)。わたしはソファーに転がしていた体を持ち上げ、球磨川先輩の座るスペースを作った。先輩はすとんと横に座る。可愛らしくアホ毛が揺れていてなんとも胸がきゅんとするではありませんか。…って違う!今日はわたしがときめくんじゃない、球磨川先輩にときめいてもらうんだ!


「球磨川先輩、今日はわたしお菓子作ってきました」

「『お菓子?』」

「はい。クッキーです」

「『僕に?』」

「はい!」

「『わあ』『嬉しいよ』『ありがとう!』」


にこっ!なんて効果音が出ちゃうほど笑う球磨川先輩。クッキーを「『へえ』」たとか「『ふーん』」だとかまじまじ見つめている。

…嬉しそうなのはわかるけど、特にときめいてる様子はない。


「………」

「『ん?』『どうかしたの?』」

「……球磨川先輩、キスしましょ」

「『………』『…………』『え?』」

「キスです。ちゅー。接吻」

「『ど、どうしたの桃花ちゃん!』『きみからそんなこと言ってくるなんて!』『誰かにそそのかされたのかい?』」

「決してそそのかされたわけじゃありません。わたしの意思です」

「『…桃花ちゃん』『本当にどうかした?』」


球磨川先輩がわりと本気でそう言ってくるもんだから、わたしはぶわっと涙を流してしまった。


「うえっ、えぐっ」

「『あーあ』『泣いちゃって』」

「ひっ、あうっ、ううっ」

「『僕でよければ話を聞くよ』『頼りないかもしれないけど』『これでも僕はきみの彼氏なんだから』」


彼氏…今はその言葉が胸に刺さってつらい。彼氏だからこそ、わたしは球磨川先輩にときめいてほしい。好きだと感じてほしい。わたしと同じように。


「くまっ、くまがわ、せんぱい、がっ」

「『うん』」

「ときめ、ときめいて、くれな、からっ、ひく、」

「『…ん?』」

「ぜんぜん、ときめいて、くれない、から、かなしい、っで、すっ!ずびっ!」


目をこれでもかってほどこする。涙が止まらない。わたし球磨川先輩の前でいったい何回泣いたんだろう。みすぼらしい姿をさらして、どうして球磨川先輩はそれでもわたしを好きでいてくれるのか。


「『えーと』『ぶっちゃけ泣きじゃくっててわかりにくいけど』『僕が桃花ちゃんにときめいてないから悲しいって言いたいの?』」

「う、はいっ」

「『ふむ』『なるほど』『それは困った』」


…やっぱりときめいてないんだ。球磨川先輩のばか、好きって言ったくせに。…好きを勘違いなんか、してんじゃねーよ。


「『僕、今ときめいてるんだけど』『それも伝わらないかなぁ』」

「え…?」

「『どういうわけか』『桃花ちゃんの泣き顔にドキドキするんだよ』」

「え」

「『すがりついて泣く時も』『不安で泣く 時もね』『もちろん笑顔も好きだけどさ』」

「…じゃあ、球磨川先輩はちゃんとわたしにときめいてくれてるの?」

「『当たり前じゃないか!』『僕は誰よりきみのことが大好きなんだぜ』」

「……」


普段のわたしなら、こんな嬉しいこと球磨川先輩に言われたら抱きついて「わたしも大好きですっ!」って言ってたとこだけど、どうにも今日はそうならなかった。どうやら本気で不安だったらしい。
嬉しいとか幸せとか、そんなこと以前に感じたのは確かな安堵で。


「…よかったぁ」


ほっと安心して、わたしは心の底から笑った。


「『(きゅんっ)』『…桃花ちゃん僕いま』」

「クッキーわたしもたーべよっと」

「『……』『ま、いっか』」


今日も箱庭学園は平和です。


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121028//ときめけ

◎宝羅さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
出遅れました、とフリリク応募メールの際宝羅さまはおっしゃってましたがじゅうぶん早かったと思います…(笑)
いつも素敵な感想ありがとうございます(*´▽`*)
「君と僕の幸福論」番外編リクエストたいへん嬉しかったです!
このたびは本当にありがとうございました!


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