朝起きると数学だった。…違う、朝起きるとみんなが数学をやってる時間だった。回りくどく言わないと遅刻だった。目覚まし時計の音なんて聞こえなかったし、いやわりとまじで。お母さんも起こしてくれればいいじゃんって思ったけどお母さんまだ寝てた。ハイパー真面目なわたしはそこで『学校さーぼろ』なんて考えず、焦って用意をして自転車に跨がり家を飛び出した。
『(授業中に教室入るのは嫌だなぁ…数学終わってからにしよ。あれ、それならけっこー余裕ある?)』
頭の中で時間の計算をしていたら、突然ぐわんと視界が揺れた。いや、視界だけじゃない、むしろ体ごと…ってかなんかいきなり重く…
「よお桃花」
『あっ、青峰!?』
後ろから聞こえた低い声。顔だけ振り向けば青峰が自転車の荷台に乗っていた。そりゃ重いわ!こいつ190以上あったよね確か!
青峰が乗った途端スピードダウンして、一気にペダルが重くなる。バランスが崩れそうになったところは青峰が後ろで安定してくれたので平気だった。
『お、重い…』
「おら、早くこげよ」
のろまなスピードで走る自転車を足でげしげしと蹴る青峰。そのたびに車体は揺れてふらつく。よく考えてほしい。わたしの体重は言えないけど、まず青峰に比べたら明らかに軽い。体格が違いすぎる。身長だって平均的な女の子のわたしが、大男を荷台に乗せて自転車漕ぐなんて有り得ない光景じゃなかろうか。
「遅刻すんぞ、このペースじゃ」
『じゃあ、青峰、が、こげっ!』
「めんどくせーから無理」
『お前マジふざけんなァァアア』
いよいよ座ってるだけじゃ限界を迎えたわたしは立ちこぎに変更した。するとなんとか少しとはいえ速さを取り戻す。
「なんつーか、アレだな」
『なに?』
「こう、必死こいて立ちこぎする後ろ姿っていいな」
『意味不明!必死、そうに、見える、なら、かわれ!』
「いやホラ短いスカートから見えるフトモモとか。ギリギリ見えるか見えないかの境目とか」
『死ね』
わたしは立ちこぎを止めた。こんな変態を後ろに乗せたままやるのなんてある意味全裸に生肉つけてライオンの檻に入れられるみたいなものだ。
『重い…無理だ…もうむり…』
「ちっ」
『!わっ、』
ぬっと青峰の褐色の腕が横から伸びてきて、わたしの手の上に自分の手のひらをかぶせブレーキを握った。なんだか重なる手にドキッとしてしまったが、なんだ今の。
「代われ。お前遅すぎ」
『なっ…青峰が乗るから!』
「あーハイハイ。桃花後ろな」
ここで前後交代。青峰が自転車をこぎ、わたしが荷台に乗ることになった。跨ぐために持ち上げた足を見て、ふと止まる。…こういう時、跨いで乗るよりも横向きに乗った方が青峰は女の子らしいとか思うのだろうか。結局わたしは横向きに乗ることにした。好きな人の手前、少しでも女の子らしくいたい。
「あー学校だりー」
『…サボっちゃう?』
「お前サボったことあんの?」
『ないない』
「ふーん。真面目な桃花ちゃんがサボりとかいいわけ?」
『いいもん』
青峰となら。
「…つーかその座り方何、わざとかよ」
『え?』
「いや……ねぇ胸当たってる」
『な、無いはよけいでしょ!?』
「いくら貧乳っつってもやっぱ反応しちまうんだからつれーよ」
『貧乳で悪かったなコラ』
わたしは青峰と笑いながら自転車の旅を楽しんだ。学校へ行くまでの短い時間だったけど、それでもすごく幸せな時間だった。その日1日、わたしがずっと右手を見つめていたのは言うまでもない。
遅刻も、悪くはない。
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121028//じれったいマドモアゼル
◎Uちゃん
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
ようやくニケツ青峰くん書けましたー!ニケツは犯罪ですので注意ですね!2人はこのあと学校の先生に見つかってめっちゃ怒られたりします。裏話です。
とりあえずUちゃんの青峰愛は黄瀬愛に適いそうもないけど、青峰くんのことも愛してあげてくださいねー!
このたびは本当にありがとうございました!