※「ただ君が好きなだけ」の、もしも黄瀬くん落ちだったら
困ったことになった。
本当に、困った。こんなに困ったこと生まれて初めてだ。
あたしは大輝が好き。いつも一緒にバスケをしていて、イタズラっぽく笑う大輝のことが大好きだった。そう、だった。
それなのにどういうわけか…マジでどういうわけか、先日から頭を過ぎるのは明るい色をした頭の彼だ。太陽みたいなあの笑顔が忘れられない。大輝のことを相談してるうちに、あたしは彼に恋してしまったのだろうか。
『……』
そんなことあっちゃダメだ。ってか、あったとしても絶対に黄瀬くんに感づかれちゃいけない。だって黄瀬くん、自分に言い寄る女の子はみんな同じふうに見えてそうだし…。黄瀬くんがあたしと仲良くしてくれてるのは"大輝を好きな女の子"だからであって、決して"あたし"だからじゃない。
『(…黄瀬くん、)』
ほんと、なんでこんなことになった。好きじゃないと思い込むことが、すでに恋を表してる。もういっそ、こんなもどかしい思いをするなら彼に嫌われてしまおうか。そうだ、あたしが告白すれば黄瀬くんは距離を置くに決まってる。
あたしは携帯を取り出し、メールを作成した。
♂♀
『え』
「あ、桃花っち!」
『き、黄瀬くん!?』
それはあたしが黄瀬くんにメールを送った1週間後のことだった。校門から出た瞬間、派手な髪に目がいく。黄瀬くんがガードレールに腰掛けていたのだ。こんなの目を見張らずにはいられない。
「来ちゃった!」
『来ちゃったって、なんで…』
「桃花っちに会いに」
やばいやばい頭がついていかない。何コレ。えっと、あたしは黄瀬くんに避けられる予定であのメールを送ったんだけど…。
「なんスか、このメール」
黄瀬くんが携帯の画面を見せつける。1週間前に送ったそれは、正直見たくないものだった。
from 青木桃花
title 無題
黄瀬くんのこと、好きになっちゃいました。ごめんなさい。もうメールも電話もしません。
『…な、何って…あたしの気持ちだけど…』
「なんでメールも電話もシカト?」
『……』
「こんなの一方的に告げられて、オレてきにはふざけんなって話なんスけど」
『!』
黄瀬くんの今まで聞いたことないような強い口調に不安は募り、あたしは顔を上げられなかった。茶色いローファーを見つめ、今にもあふれそうな涙をこらえる。嫌われた。完璧に嫌われた。…これでいいはずなのに、めっちゃ悲しいよ。
けれど次の瞬間、腕を引っ張られた。ぐっと引くその力に引き寄せられあたしの体は黄瀬くんの腕の中におさまる。周囲からうるさいくらいの声が聞こえてきた。そういえばここ、校門じゃん。生徒がいっぱいで、しかも大人気モデルの黄瀬くんだから当たり前か。ってあれ、なんであたしこんな冷静?いや、展開についていけてないだけだ。やばい。なにこれ。まじでなにこれ。
「…寂しかった」
『え…』
「オレ、桃花っちだけは好きにならないようにしようって決めてたんスよ」
『……(ガーン)』
「だって青峰っちの大事な子だし、……」
『黄瀬くん…?』
あたしを抱きしめる黄瀬くんの腕の力が強まる。
「でもやっぱり…オレ、桃花っちを彼女にできるなら青峰っちにブン殴られてもいいっスわ」
思わずあふれた涙を止めるすべを、あたしは知らない。かわりに彼の大きな背中に腕を回し、これでもかってほど強く抱きしめた。
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121025//恋の始まるメロディー
◎匿名さま
40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
黄瀬くん落ちバージョンは考えてなかったので、ちょっと難しかったんですがすごく楽しかったです!
このたびは本当にありがとうございました!