「桃花っち、今日の放課後あいてるっスか?」
『え、うん』
「ならちょっと付き合ってほしいんスけど!」
『あ、いいよ』
休み時間、黄瀬くんが話しかけてきた。黄瀬くんとは同じ海常高校に通う友達で、クラスも一緒だから仲はいい方だと思う。だけどこうして放課後お誘いされることはなかったから、ちょっとびっくり。それから新鮮かも。男の子に誘われるのなんて、いつぶりだろう。特に部活も入ってないし二つ返事したけど、そういえば黄瀬くんは部活休みなのかな?ま、いっか。部活熱心な黄瀬くんが誘うくらいなんだから、きっと今日はお休みなんだろう。
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「実は今日は桃花っちに会いたいって人がいるんスよねー」
『へえ、わたしに?知ってる人?』
「多分、知ってると思う」
『そっかぁ。楽しみだなぁ』
放課後、わたしはちょっとわくわくしながら黄瀬くんの案内する道をたどった。会いたい人って誰だろう。お友達とかかなぁ。でもなんでわざわざ黄瀬くんを使って…わかんないしもう考えるのはやめよう。隣を歩く背の高い彼を見上げればどこか楽しそうにしていた。その顔はどこかで見たことのあるような気がしたけど、すぐにまあいっかと自分の中で完結した。
「ん、ついた。ここっス、この公園!」
『へえ、初めて来たなぁこんなとこ』
「中にはバスケットゴールもあって広いし結構いいとこなんスよ」
『ふうん』
「あ、青峰っちー!連れてきたっスよー!」
黄瀬くんが大きな声でバスケットコートに立つ男の子のとこに手を振って駆け寄る。背の高い彼が着ている制服は海常のものではなく、他校のそれだった。わたしは予想外の人物にひとり出遅れてしまう。っていうかだれ?いや、見覚えは確かにあるんだけど、えっと…どこであったっけな…。
「桃花っち!こっちこっち!」
『うん!』
黄瀬くんに手招きされてわたしは2人に近付いた。あ、近くで見てやっと気づいたけど、この人…
『青峰くん?』
「ひさしぶりだな、桃花」
『わあ、青峰くんだ。ひさしぶりだねー!』
「え、2人ってそんな仲良かったんスか?もうちょっとよそよそしいかと…」
『うん、そんなに仲良いわけじゃないよ』
「………」
わたしと青峰くんは中学も高校も違う、ほんとに友達とさえ言えないくらいの知り合い程度。知り合った契機がバスケの試合のときで、って言っても青峰くんが試合のあと水場で顔洗ってた時のことなんだけど、うっかりタオルを水場に落としちゃって使い物にならなくなったシーンを見ちゃっただけ。だからわたしは持ってたタオルを彼に渡して、最初は警戒心丸出しだったけどなんとか顔を拭いてくれた。そして名前と高校言う程度の軽い挨拶済ませたくらい。
こんなこと言うのもなんだけど、青峰くんはわたしのこと忘れてると思ってたし、実際わたしも忘れてたよ。
「今日はお前に、話があって」
『あ、そうなの?』
「…その前にタオル返しとくわ、ありがとな」
『わあ、ありがとうー』
「…で、その。オレ、お前のこと、好きになったんだけど」
『うん、そっか、………ん?』
「あの日、お前が笑ってタオル渡してくれたとき、オレお前に惚れた」
『あお、青峰くん?』
「だから、海常って聞いて黄瀬にお前のこと探してもらおうと思った」
『なるほど…』
「でもそしたらコイツも、お前のこと好きとか言いやがってよ、」
「ちょい待ち!なんで言っちゃうんスかぁ!」
「え?あ、ワリ」
「自分で言いたかったのに…ま、いーや、バレちゃったもんはしょーがないっスよね。桃花っち」
『は、はい』
「オレも桃花っちのことが好き」
『…おおふ』
ちょっとちょっと、大変だよお母さん。わたし告白されてしまった。2回も。しかもイケメンに、だよ。何これ何この状況どこの少女マンガ?
『あの、わたし、嬉しいけど2人とも恋愛としては…』
「っつーことでこれから、こいつと1対1(ワンオンワン)するから」
『へ?』
「オレが黄瀬に1対1で勝ったらオレと付き合え」
「もちオレが勝ったらオレとっスよ!」
『…あの、わたしは2人とも好きじゃ…』
「好きにさせる」
『えっ』
「だから今は、黙って見とけ」
青峰くんはそう言って、制服のシャツの袖をまくりはじめた。黄瀬くんも同じようにしてる。ワンオンワン、って黄瀬くん対青峰くんのことだよね。え、なに、ほんとなんなのよこれ。頭がついていきません わたし。ひとまずそばにあったベンチに腰掛けることにした。あ、始まった。イケメン2人に取り合われるなんてなんたる奇跡。一生に一度ないよ、こんなの。
でもわたし両方恋としては見てないしな。黄瀬くんはお友達だし、青峰くんはお友達ですらないし。
……………なんか青峰くんめちゃめちゃバスケうまくない?黄瀬くんが上手なのは知ってるけど、あれ、これひょっとして黄瀬くんより強い…?そういえばあの日は試合後の青峰くんを見ただけだったからプレイしてるとこは初めて見るんだなぁ。
『(わ、すご、なんでそんな体勢でシュート入るの?)』
青峰くんは信じられないくらいバスケがうまかった。ゴール裏から投げたボールは綺麗にゴールリングをくぐる。今までに見たことのないプレイだった。もちろん黄瀬くんだって、すごい。…だけどごめん黄瀬くん、今のわたしきっと青峰くんしか見れてない。素人目にだって、彼がどれだけすごいプレイヤーなのかわかる。信じられないようなバスケットセンスだろう。
純粋に かっこいい と思った。
「っしゃあ!勝った!」
「あ、青峰っちつえー…ハァ、はぁ」
10点先取らしい。10対6、ゲームに勝ったのは青峰くんだ。2人とも荒い呼吸で、肩で息をしながらそれでも楽しそうに笑ってた。いや、それにしてもこの胸のドキドキは…、
『…あの、わたし、青峰くんに惚れちゃったみたいなんですけど』
「え?」
「え、桃花っち?」
『好きです、青峰くん。わたしとお付き合いしてください』
「よ…喜んで?」
こうして、晴れてわたしたちはカップルとなったのだ。
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121008//今日からわたし、君のすべて
◎ウキさま
このたびは40万打記念企画に参加してくださりありがとうございます!
つい最近来てくださったのに、もう虜になっていただけたようで!
めちゃうれしいです(笑)
設定のほう、明確に伝えてくださりありがとうございます。とても書きやすかったですよー(*´▽`*)
書きやすかった、というわりに出来映えは…なんてこと思わないようにしてください、わたしが泣きます。←
それにしても黄瀬くんがかわいそうな役回りに…!
何はともあれ、本当にありがとうございました!