1121 | ナノ
目が泳ぐ、顔が赤くなる、どうやって笑っていたか分からなくなる、病気にかかりました

『わたしカゴ直してくるから先行ってて』

「うんー」


体育が終わり、体育委員のわたしは今日使ったサッカーボールの入ったカゴを体育倉庫に直しに一人で向かった。ゴロゴロと重いそれを運びつつぼんやりと高尾のことを考える。今朝はおかしな反応をしてしまったが、疑問に思われてないだろうか。高尾を好きだと自覚したいま、正直話しにくくて仕方ない。変に意識してしまうのだ、わたしは。


『あれ…』

「ん、あ、大谷」


体育倉庫にたどり着くと、すでに先客がいた。まさかまさかの高尾で、この寒い時期に体操服の半袖を肩まで捲り上げているではないか。ほんとに人間かこいつ。それにしても高尾を確認した瞬間どきんと胸がなるあたり、わたしは本当にこいつに恋をしてしまったのだと再確認する。


「そっか、お前も体育委員か」

『あ、そういえば高尾もだった』

「めんどくせーよなー片付け。オレ置いてかれちゃった」

『わたしもだよ』


片付けは面倒だし、喉だって乾いたし早く戻りたいけど予期せぬ展開にわたしは確かに喜んでいた。高尾と2人で片付けなんて、偶然でもうれしい。いや、偶然だからこそうれしいのかも。


「女子あれ何やってた?」

『…サッカー……らしきもの』

「なにそれ!」

『だ、男子は持久走?』

「おう!」

『高尾速かったね、みんなすごいすごい言ってたよ』

「やーん高尾くんモテモテ?」

『モテモテだったよ』

「…否定しろよ恥ずかしいだろオレが」


いや、そんな余裕わたしにはありません。今高尾と2人きりでいるだけでドキドキして、高尾の顔なんてまともに見れやしない。声だって震えそうなほど緊張してる。何これ。なんだこれ。今まで2人でもなんにも思わなかったのに、恋した瞬間こんなにあからさまに消極的になるとかマジわたしどんだけ乙女!?

倉庫から出たわたしたちは、自然と一緒に更衣室まで行く形になった。隣を歩くだけでもどのくらいの距離をあけて歩けばいいのか、なんて考えてしまう。


「なんか大谷おかしくね?」

『えっ』

「どっか変なんだよなぁ…いやいつも変だけどさ」

『べ、別に』

「ほら!」

『?』

「"いつもじゃないから"とか言うツッコみが来ない」

『なんなのよあんたは…』

「んー高尾くーん。っと」


いや、そういうことを聞いてるんじゃない。
高尾は軽やかにぴょんっと飛んで自販機の前に立った。ジュース買うんだ。体操服のポケットから小銭を取り出しぽちりとボタンを押すと、ガコッと音がした。わたしはそんな高尾を眺めながらカッコいいとか考えていた。わたしの頭は早くもやばい段階だ。


「ん?どした?」

『(首傾げるとか可愛いなマジで…)な、何買ったの』

「ぐんぐんヨーグルト」

『…おいしいやつね』

「お前も飲む?」

『え』


お前も飲む?


『は?』

「いや、飲みたそうだったから」

『…いいの?』

「…?別にオレは……、!あっ!いや、ちが!わり、間接キスとか嫌だよな!ごめん!」


高尾はわたしの戸惑う理由を思いついたようで、突然態度をがらりと変え慌てて手をぶんぶんとふり弁解しだした。心なしか顔がうっすら赤い。そんな様子がなんだか可愛くて、わたしはクスッと笑ってから『ちょーだい』と言った。


「え?」

『高尾が間接キス嫌じゃないなら、ちょーだい』

「オレは平気だけど…お前は大丈夫なわけ?」

『うん、平気』


笑ってそう言うと、高尾もにこりと笑ってわたしにパックのそれを差し出してくれた。


(少しでも間接キスのことを気にしてくれたことが嬉しい、なんて言えない)


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