嘲笑リズム | ナノ


「なっ……あ、あお、」


──青峰くん。
コンクリートから声の方向に視線を移せば、そこにいたのはクラスメートの彼だった。意外すぎる人物の登場に戸惑っているのは私だけじゃない。

彼はのんきにもヘラヘラ笑いながらこっちに歩を進めてくる。


「いや、別にほら、オレはアレだぜ?なんもカンケーねーし、アイツのファンの女共が何しようと何されようとどうでもいいよ」


私も彼女たちも何も言わない。お互いに、彼の立場が把握できないのだ。いったいどちらの味方なのか、いったいどちらの敵なのか。


「だからお前等がここでそんなくだらねーことしてたってマジで興味もねんだけど、…ソイツ」


顎で差したのは、座り込む私。一瞬彼女たちの視線が集まったがすぐに青峰くんに向けられる。
彼が何を言うのか、ゴクリと唾を飲む音がした。


「ソイツ、うちのクラスの学級委員なんだわ」

「──…は?」


思わず間抜けな声を出した気持ちも、理解できる。

学級委員?がっきゅういいん?いや、確かに学級委員だけど……だから?


「んで、今オレこないだのテストの点悪かったからって課題出されて困ってるわけよ。そしたら名案、学級委員なら頭いいから代わりにやってくれんじゃね?ってさー」


無邪気に笑う青峰くんだが、私には邪気の塊にしか見えない(だから黒いんだろうか)。
ってか教えてもらうとかじゃなくて丸投げする気なのね。


「つーわけで、お前等邪魔」


しっしっと手でジェスチャーする青峰くん。彼女たちはこそこそと何かを話したあと、身をよじらせ言いにくそうに口を開いた。


「あの、青峰くん、このこと、涼太には…」

「あー?黄瀬がなんだよ」

「い、言わないでほしいの」


ずいぶんと歯切れ悪く喋る。何かを怖がっているようだ。


「なんで」

「え?」

「お前等黄瀬に頼まれてコレやってんだろ?じゃあ別にオレがあいつに言おうがなんでもいいじゃねーか」


あ、と声を漏らしたのが何よりの証拠で、彼女たちは嘘をついていたということになる。ホッと胸をなでおろした。


「つまんねーことやってっから黄瀬に相手にされねんだよ、早く消えろ」


幾分か低くなった青峰くんの声に肩が震えた。パタパタと足音を立ててこの場から去っていく彼女たちを見送ることもせず、青峰くんは私の前まで来てしゃがみこんだ。


「びしょ濡れだな、おい」


ちょっと待ってろよ、と言って自分のスクールバックをがさつにも漁る。私は地面に座り込んだまま、その様子を呆然と見ていた。目の前で起こっている現実に頭がついていかなくて。





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