黄瀬くんは冷たい。
「あんた邪魔っス」
周りの女の子にはあんなに笑顔を見せて、あんなに優しいのに、私にだけはすごく冷たかった。射抜かれるような冷たい瞳しか、向けられたことがない。そのたびに私は嫌われてることを実感して、泣きそうになって、だけどそれでもどうしても黄瀬くんが大好きで。
「試合、観に来ないで欲しいんスけど」
いつにも増して冷たい声が涙腺をゆるませる。今にも泣き出しそうで、なのに黄瀬くんから目がそらせなくて。
「気散るんスよね、あんたが視界に入ると。マジで不愉快」
どうして、と心の中で呟く。
黄瀬くんがゲームに集中できなかったらイヤだから他の子みたいにキャーキャー騒いだりしない。その綺麗なプレイを見ながら興奮する体を抑えて、歯を食いしばって黙って見てるのに。応援の声をあげたい気持ちさえも我慢してるのに。それでも気が散るの?それはもう私の存在自体が邪魔だから?
『わ、私っ…ただ黄瀬くんのこと応援したく、て……っ!』
突然のダン!という音に肩が揺れた。思わず瞑ってしまった目を開ければ、黄瀬くんが私の後ろの壁を殴ったことがわかった。背の高い彼から見下ろされるのはただでさえ威圧的に感じてしまうのに、こんなにも嫌悪を含んだ瞳でされたら胸が痛くなるどころの話じゃない。
「それが邪魔なんスよ。応援なら他の女の子だけでジューブン。」
『っ……』
「ねえ、まさか」
黄瀬くんの手が伸びてくる。何をされるかわからなくて、体が強張った。
そして彼の綺麗な手は、私の黒い前髪を掴み、そのままぐいっと乱暴に持ち上げた。想像以上の痛みに顔を歪める。
「自分のこと可愛いとか思ってる?」
『!お、思ってな…』
黄瀬くんが妖しく笑う。その笑顔に自然と顔に熱が集まった。かあっと赤くなったことを黄瀬くんは肯定と受け取ったのか、ふいに笑顔を消して「気持ち悪いんスよ」とさらに前髪を強く引く。
『いたっ…』
「痛くしてるんだよ。そんなこともわかんないなんて、やっぱバカっスよねー」
『き、きせくっ…』
「……名前、呼ぶな」
ドサッと放り投げられ、私の体は冷たいコンクリートに落とされた。黄瀬くんを見上げたらまるでゴミを見るかのような視線。投げられた時に擦りむいた膝が痛い。
「じゃ、オレもう戻るんで。二度と口聞かねーようにしてくださいよ、あと視界にも入らないように、ね」
上靴の擦れる音が次第に遠のいていくのを聞きながら、私は堪えていた涙をついに流した。
どうして私なんだろう。
汚い考えかもしれないけど黄瀬くんを好きで黄瀬くんのファンの子なら他にもたくさん、本当にたくさんいるのに。私よりも不細工な子だって探せばきっといるよ。黄瀬くん、教えてよ。私のことをこんなにも嫌う理由を、どうか、どうか教えてください。全部全部直すから。黄瀬くんが嫌なところ直すから。
『……痛い、』
体よりも、心が。
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