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「神威さん、なんですかそれ…」
「何って、書類だよ。見てわからない?」
「わかります、わかりますけど…どうしてわたしの部屋に?」
相変わらずノックも無しで入ってきた神威さんが持っていたのは、積み重ねられた書類の山。なんてゆーか、面倒な臭いがプンプンする。
そしてわたしの予想通り、神威さんはまるで決まってるじゃないかとでも言いたげな顔をして笑う。
「さくらにも手伝ってもらおうと思って」
「この書類の山を?いやですよーそんなの…めんどくさい」
「大丈夫、猿にでもできる簡単なことだから」
「そういう問題じゃなくて…量が!ハンパない!」
「これ邪魔」
「あーっ!」
机の上に置いていた雑誌や服やお菓子が腕一本に落とされた。そしてそこにドサッと嫌な音をならせて山を置く神威さん。うげえ…本当にやるの?
「何ボーッとしてるの」
「え」
「さくらはこっちね」
「えっ」
わたしの肩を掴んだかと思えば、机の前に座らせる神威さん。自分はと言えばわたしの机を挟んで向かいのソファーに座っている。…神威さんのほうがなんかいい気がするのは気のせい?上司だから仕方ないのかな…でも手伝わされるのにわたし。
「(ま、この人に文句は通じないか)で、何するんですか?」
「俺の名前と日付を記入して、最後にこの判子をポン」
「…意外とめんどくさいですね(ってゆーかポンって可愛いなオイ)」
「頑張れ。ほら、せっかく俺が阿伏兎に頼んで判子を2個作ってもらったんだから」
…うん。めんどくさいけどしょうがない。神威さんの頼みだ。
ということでわたしは作業を始めた。
「…ん?神威さんってどういう漢字ですか?」
「神様の"神"に威圧の"威"」
「こう?」
「うん」
なんかかっこいい字…名前負けしない人だなぁ。
「素敵な名前ですね」
「そう?」
「はい。よく似合います」
「さくらの名前も、俺は好きだけど」
「え」
「可愛いと思うよ」
「ま、マジですか」
「名前だけね」
「……」
どーせ可愛くないですよー。神威さんみたいに整った顔してないんです、ごめんなさいね。
「あれ、拗ねてる?」
「べつにー」
「拗ねてるじゃん」
「拗ねてません」
「拗ねてるよ」
「もう、ほっといてくださいよ!」
「俺、さくらの拗ねた顔けっこー好きかも」
「…はい?」
「ムッとした顔。見てて泣かせたくなるって言うか、嫌がらせしたくなるような、なんかそんな感じ」
「…そういうの加虐癖って言うんですよ」
「ふーん」
あ、興味なさそう。
神威さんの返事を聞いたあとはもう何も言わずに作業を続けた。
♂♀
「(もう何十枚やったんだろ…)」
30までは数えてたけど飽きてやめちゃったからなぁ…間違いなく50は越えた。…それでもまだまだあるこの書類はなんですか。ってゆーか今さらだけど第七師団でもデスクワークとかあるのね。てっきり闘ってばっかかと…ああああめんどくさい。
「!か、神威さん!?」
「ん?」
「ん、じゃありませんよ…何してるんですか!」
「何って、ほら、書類に判子を押してるよ」
「いやいや、絶対その体勢進むの遅いでしょ!」
その体勢とは、神威さんの体勢のことだ。彼はいまソファーに寝転び片足を背もたれにあげ、なんともだらけた状態だ。かろうじて自分の脚を下敷きに書類に書き込んではいるが、明らかにスピードは遅い。そりゃそうだ。だってやる気が感じられないもの!
「そんなことないヨ」
「あります!だって神威さんの終わったプリントわたしのやつの3分の1くらいしかありませんもん!」
「さくら」
「はい?」
「お前は俺の、なんだっけ?」
「…付き人ですが」
「だよね。それなら俺の言う通りにしないと…どこか知らない宇宙の星に置いていっちゃうぞ」
「……ハーイ」
だれか わたしに訴えさせてください。どうやら春雨の船には裁判所が必要なようだ。
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