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「さくらー暇ー」
そう言って勝手に入ってきたのは神威さん。トランプタワーを作っていたわたしは驚きのあまり手が当たってしまい、無惨にもバラバラとカードは落ちていった。
ああ……わたしの最高傑作が……!
「いきなり入らないでくださいよ!せめてノックくらいしてっていつも言ってるじゃないですか!」
「うん、これからはちゃんとするよ」
「それもう何回も聞きました」
「それより遊ぼうよ、ほら、鬼ごっこしよう」
「お…鬼ごっこ?」
神威さんと…鬼ごっこ………
わたし殺されんじゃね?
「鬼は俺ね。十数えるから、さくらはさっさと逃げな。さくらがつかまったら俺の勝ち、さくらが逃げ切ったらさくらの勝ち。罰ゲームは勝ってから決めよう」
「え、え、まっ、」
「いーち、にーい、」
「あわわわわ」
とりあえず逃げ始めることにした。ここにいたら死ぬ(つかまる)だけだ!
行動範囲は神威さん言わなかったし、船内ならどこでもいいってことだよね?
「……ふ、ふふ」
「ふっ、ふふふ、はーっはははは!!」
神威さんは何もわかっていない!!わたしの足の速さをなめちゃいかん!めちゃめちゃ速いんだからなコノヤロー!
「あり、さくらまだこんなとこにいたの?」
「っ!かっ神威さん!?」
「さすが地球産、足遅いね」
「なっ…遅いだと…!?てか神威さんはやっ!」
なんだそのスピード!わたしバカみたいじゃん!バカみたいに遅いじゃん!
「ほらほら、速く逃げないとつかまっちゃうよ」
「こ、これでも精一杯走ってます!」
「罰ゲームは何にしようかなー、迷うなあ」
「あわばばば!」
神威さん面白がってる!ぜーったい面白がってる!わたしと同じ速さで追いかけてっ……性格わる!
──20分後
「だんだんスピード落ちてきたよ、さくらちゃん」
「っ、はあっ、はあっ…!」
やばい、この人の体力底無しだ!やばすぎる!オバケみたいだ!鬼に向いてすぎる!そしてちゃん付け怖い!ここまで走り続けたわたしを誰か誉めて!?
「(逃げてるばっかじゃいつかつかまる!…なんか…障害物とか…!)」
しょーがない、あとで怒られるかもしんないけど…
手首にかかったブレスに手を伸ばし、小さくなってる鎌を握りしめる。
わたし今まで一回も大きくできたことないけど…今ならできる気がする!だって後ろの神威さんがものすごく怖いから!お願い、大きくなって──!
グイイイイン
「!…や、やったー!」
「へえ、さくら戦うつもり?嬉しいな」
「誰が神威さんみたいなオバケとっ……違いますよーーだ!」
そう言って、走りながら巨大な鎌を壁にめり込ませた。するとガラガラと音をたてて壁は崩れ、わたしと神威さんの間にいびつな壁を作る。
ごめんなさい阿伏兎さん、お金かかるかも!でもいーよね、さっきから神威さん走りながらめっちゃ破壊してるし!
「神威さんならあんな壁簡単に壊しちゃうし……はやくどっかに隠れなきゃ!」
って言ってもどこに…隠れるとこなんか……
「あっ、ピッピくん!」
「さくら。何慌ててんだよ、トイレか?」
「違うよ!」
「冗談だよ」
「……。今鬼ごっこで神威さんから逃げてるの、ちょっと隠れさせて!」
「あ?」
本人の返事は聞かないで、ピッピくんの近くにあった大きめの段ボールの中に隠れた。すると外からピッピくんが言う。
「お前団長と鬼ごっこって無謀じゃね?」
「わたしも思った!でも始まっちゃったものはしょーがない!」
「あの人体力オバケだからなー」
「…うん、激しく同感。てことでピッピくん、神威さんが来てもわたしがここにいること言わないでねっ」
「お前がそのピッピくん呼びやめたら言わないでやる、よっと」
あっ、ピッピくんめ、段ボールの上に座りやがったな!ちょっとバランス崩れちゃったじゃんか!
文句はいくらでも思いつくが今反抗しちゃだめだ、ピッピくんは本当にわたしを差し出しそうだし。
「朱雀くんお願い!」
「……」
「え、あれ、朱雀くーん!?」
「黙ってろ」
あっ、神威さんが来たのか…!
「団長、さくらをお探しですかー?」
「うん、知ってるの?」
「アイツならあっちに走っていきましたよ、すんげー形相で」
「(形相報告いらなくね!?)」
「…朱雀、もし本当のさくらの居場所を知ってるなら早いうちに言うのが身のためだよ」
「団長、さくらここです」
おいスズメコラァァアア!!
「みーつけた」
光が差し込んでいく中、恐ろしい声が降ってきた。……ああ、わたしの負け、ですね。
(ピッピくんの裏切り者!なんで言っちゃうのさ!)(団長はさすがの俺でも敵わねえからな)(ヘタレ!)(んだとコラ)
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