lovin' rabbit | ナノ
 


 25



助ける、とは言った。助けたい、とも思った。本当に。だけど春雨に入ったばかりの新米に権力なんてあるはずもなく、いったい何ができるのだろうか。


そんなことを、ユートくんを抱きしめながら考えていた。


「助ける、ねえ」


甘くも冷たい声が聞こえたとき、わたしの体がビクッとなったのがわかった。


「神威さん…」
「かむい…?」
「わ、ばか、呼び捨てに………して…いいのか…?(王子様だもんな)」
「やあ、君がユートくん?」
「お兄ちゃんも殺し屋さん?」
「殺し屋じゃない、宇宙海賊春雨の第七師団団長だよ」
「はる…?しだん…?」
「君を殺してくれって、君のお父さんに頼まれたんだ。意味わかるかな?」


神威さん…こんな小さい子相手に包み隠さず言っちゃうんだ…!オブラートに包もうとか言えるレベルじゃないんですけど!むき出しなんですけど!


「か、神威さんっ、そんなはっきり言わなくても!」
「いいじゃないか、その子もどうやら知ってるみたいだし」
「でも…!ちょっとは隠そうとか思わないんですか!?」
「意味のないことだろ?」


神威さんは笑顔を貼りつけたまま、そう言った。


そして、さっきの優しい声からは想像もできないような冷たい声をかけられる。


「さくら」
「!」
「おいで。これから任務が始まるんだ、そこにいたらお前も一緒に死ぬよ」
「……」


わたしがユートくんを離さなくても、きっと神威さんはなんのためらいもなくわたしたちを殺すだろう。そういう人ってことくらい、もうわたしだって知ってる。


でも、でも…


「神威さん、お願いします。ユートくんを殺さないで」
「……」
「きっと彼を殺さなくてもこの星を救う方法なら他にあると思うんです。…ユートくんの力が暴走するって確実な可能性もないのに殺すなんて、わたしには納得できません」
「この先さくらが納得できない仕事なんて山ほど出てくるよ。そのたびにこんな泣き言を言うつもり?」
「…わたしは…っ!」
「教えてあげるよ、さくら。助けるなんて出来もしないことガキに言って、無駄に喜ばせることのほうが俺が言ったことより何倍も酷いんだ」
「……」


出来もしない、こと。
確かにこんなことを言っておいてユートくんを救えなかったら、わたしはこの子にぬか喜びを与えただけかもしれない。そうなれば彼に憎まれたって仕方ない、でも、そうなった時にはユートくんはもう憎むことさえできない…


ぎゅっとユートくんを抱きしめる腕に力を込めてから、わたしは離した。


「えらい、えらい」


そう言って神威さんがパチパチと拍手をする。(思ってないくせに、)


不安の色を映すグリーン。その瞳を見てから微笑み、神威さんのもとに足を進めた。


──パンッ


「……」


手のひらが痛い。当然だ。けっこー本気で叩いた。
頬を叩かれた神威さんは目を丸くさせている。


「出来もしないことなんて言わないで!…確かにわたし1人じゃ難しいことかもしれないけど…誰かが協力してくれればきっと出来ることなんです!あの王様は間違ってる!こんな小さな子供の未来を奪う人が、住民の命も考えたなんて言えるわけない!……神威さんも…そう思いませんか…!?」


ボロボロと流れる涙で神威さんの表情はわからなかった。でも、これだけはわかる。わたしきっと殺されちゃう。神威さんに平手打ちかまして、泣きながらこんなこと言って任務の邪魔して。


「さくら」
「っ…ひっく……うっ…」


ぼやける視界でも、神威さんが手を上げるのが見えた。……ああ、こんなにあっさり殺されるのか。しょーがないよね。ユートくんごめんね、結局わたし…何にもできなかった。


ガッ


「っ、い、た」


……って、え?あれ?


「か、神威さん…?」


殺されると思ったはずが、なぜかわたしは今神威さんに俵担ぎされている。…ど、どーゆーこと?


そのまま歩き出した方向には、ユートくんがいる。


「うちの部下を泣かした罪は重いよ」
「…え…ぼく…?」
「君以外に誰がいるの?本当は殺そうかと思ったけど、それじゃあこの罪から簡単に逃げれちゃうよね?君には苦しんでもらわないと」
「か、神威さん?」
「そうだなぁ、このまま星に残って、自分の力のせいで故郷が潰れちゃったりしたら君みたいな弱い子はつらいね」
「……」
「阿伏兎」
「…おい団長、まさか」
「(阿伏兎さんいたんだ…いつのまに)」
「後のことは頼んだよ。俺はそういうの、ムリだから」
「……ハァー。はいはい、わかりましたよ」


ボリボリ頭を掻いてお城に入っていく阿伏兎さん。
この状況についていけてないのは、わたしとユートくんだけだろう。


だって、今の神威さんの言葉。
まるでユートくんを殺さないような…


「それじゃあね、早く強くなるんだよ、ユート」


そう言って神威さんは踵を返し、庭園どころかこのお城の敷地からも出ていこうとする。方向から春雨の船に戻ることがわかったから、わたしは神威さんに担がれたまま慌ててユートくんに向かって声を上げた。


「ユートくん、わたし、さくらって言うの!また会えたらいいね!頑張ってね!」


ばいばい、と間延びさせた言葉にユートくんは可愛らしい笑顔を見せてくれた。…子供って可愛いなあ。


……じゃなくて!


「神威さん!」
「何?」
「あの、なんでユートくんのこと助けてくれたんですか?」
「助けた?何バカなこと言ってんの。早く大人になってくれないと、戦えないからね。星1つ潰すような力のある子供を俺が殺すわけないだろ?」
「……」




「…神威さん」
「何?」
「怒って、ないんですか?」
「何に」
「何って…平手打ちしたこととか…任務の邪魔したこととか……いろいろめんどくさいとこ」
「んー、さくらがめんどくさいのはいつものことだし」
「……。…平手打ちしたとき神威さんに殺されるって思いました」
「あんなの平手打ちに入らないよ。なんなら俺がやってあげようか?」
「…遠慮しときマス」
「もっと力が強かったら、条件反射で殺しちゃってたかもネ」
「……」




「……神威さん…」
「何?」
「ありがとうございます…」
「はいはい」


わたしの上司がこの人で、本当によかった。



(阿伏兎さん、お疲れさまでした。わたしのせいでごめんなさい)(ったく…とんだ誤算だよ。つーかよく殺されなかったなお前さん)(今ばっかりは力の弱さに感謝です)(?)


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初任務篇終了!って言っても3話だから短かったですね。今回はヒロインちゃんのワガママを貫き通しました。でも春雨に入ったんだからある意味しょーがないことなんですよね…こーゆー任務も。


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