24
「これはこれは、春雨第七師団の皆さん。ようこそいらっしゃってくださいました」
そんなふうに言って、わたしたちをだだっ広い部屋に迎え入れたのは天人には見えない人間のような年老いた男だった。
中には長いテーブルがあって、大量の食事が出されてある。…さすが、夜兎の扱いを心得ているようだ。
「どうも」
それだけ言って神威さんは席につく。続いて阿伏兎さんも座ったので、わたしもとりあえず腰かけることにした。…わっ、椅子ふかふか!ソファーみたい!
「(ぼふんぼふん)」
「えと、そちらは…?」
「ああ、気にしないでください。ただの子供です」
え、わたしのこと?神威さんいま子供って言った…?そ、そんな年変わんなくね?
「さて、それじゃあさっそく今回の話ですが」
神威さんが豪華な食事に手を出したと同時に、話は始まった。任務は先ほども言ったがごく簡潔、この国の王子を殺す、ただそれだけ。だけどそれだけのことがわたしはすごく気になってた。
「あの…なんで王子様を殺すんですか?そんなことしたら世継ぎがいなくなるんじゃ…」
「世継ぎなんてまた作ればいいんです。…あの子は危険すぎる」
「え?」
「とても強い力を秘めた子供なんですよ。戦力になるのは将来の話であって、幼い今、莫大な力をコントロールできない。いつこの星が跡形もなく消えるかわからないんです」
「ほっ…星が…」
それってハンパないんじゃ…
「でも確かこの星は幼少時から成人になるまでの期間だけが速いんですよね?それならあと数年待てばいいじゃないですか」
あ、神威さんがちゃんと仕事してる。
「その数年で星がなくなればお仕舞いですよ…」
「…子供を」
「はい?」
「子供を殺すことに、抵抗はないんですか?」
「…おいさくら」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「いいんですよ。…抵抗はもちろんありますが、何万もの住民の命もしっかり考えた上での、王としての判断です」
───王としての…。
しょーがないってこと…?
「…あの、わたし、さっき庭にあった広いお花畑に行きたいんですが。ちょっと行ってきてもいいですか?」
「ああ、かまいませんよ」
「それじゃあ、失礼します」
このまま部屋にいたら、嫌な顔を見せてしまっていたかもしれない。よかった、許してくれて…
「さくら」
大きな扉に手をかけた時、後ろから神威さんがわたしの名を呼んだ。
「…いいコにしてなよ」
ドキッ。
……ん?え?あれ?ドキってなに、ドキって。いや…だって…神威さんのあの笑顔…!なんてゆーか、妖しげで…!
「(うーむ……よ…妖艶…?)」
♂♀
さすがは星一番のお城というかなんというか、庭園の広さはハンパじゃない。見渡す限りの花畑。実はわたし、お花大好きなんです!(顔に似合わないとかゆーな)
「わー、地球じゃ見たことない花ばっかり…」
どれもこれも見覚えのないものだ。きれいだなー…。わたしも部屋で植物とか育ててみようかな?なんとなく今の部屋は殺風景な気がするし…
「お姉ちゃん、だれ?」
お花畑に囲まれながら癒されていると、幼い子供の声が聞こえた。
見てみると5歳くらいの男の子がいた。綺麗な空色の髪と、グリーンの瞳。び…美少年…って、やつ?
「えと、お姉ちゃんは…」
「殺し屋さん?」
「えっ」
「ぼくを殺しにきた、殺し屋さんじゃないの?」
なっ……子供が、なんて言葉を…!ってゆーかバレてるし!(殺し屋さんじゃないけど似たようなもんだ)
「ち、ちがうよ、お姉ちゃんは…」
「いいよ、かくさなくて。…ぼく殺されちゃうんでしょ?お父様がたのんだ、殺し屋さんに」
「……あ…」
泣きそうな、声なのに。真っ直ぐとわたしを見るグリーンの瞳に何も言えなくなった。
…全部 わかってるんだ。自分の力のことも、お父さんのことも。
そう思ったらいつのまにかわたしは彼のことを抱きしめていた。
「…ねえ、君」
「君じゃないよ、ぼくユート」
「ユートくん?」
「うん」
「…怖くないの?わたしなら、とっても怖いよ」
「…ぼく強いからこわくないよ。お姉ちゃんは弱いんだね」
「そーなのかな」
「お姉ちゃん」
「…ん?」
「お姉ちゃんは弱いの?」
「あはは……よわいよ」
「弱いから、泣いてるの?」
「──そうかも、ね」
抱きしめられてるユートくんがどうして気付いたのかはわからないけど、確かにわたしは泣いていた。
こんなに小さな子供が、これから自分が殺されてしまう未来を怖がらないわけがない。
この子の三倍以上生きてるわたしでもそんな未来受け入れられないもん。
「ユートくん…」
「なあに?」
「わたしが、助けてあげる」
「…え?」
「助けるよ、わたし。ユートくんのこと」
「絶対に、助けてみせる」
(震えるユートくんの肩を、力いっぱい抱きしめた)
<< >>