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『よく頑張ったな』
『ああ、でもちょっと頑張りすぎか?ムリはすんなよ、お前はガキなんだからな』
『…あ?なんだその目、ガキ扱いすんなって言いたいのかよ?しゃーねーだろ、俺からしてみりゃまだまだガキだよ』
『結婚ねぇ……お前の胸がボンッと出て、腹はキュッと締まってケツも出たら考えてやるよ』
血なまぐさいこの場にゴロリと寝転んでいると、自然と昔のことを思い出した。まぶたを閉じていろんなところの痛みに耐えていると、近くから調子のいい声が聞こえてくる。
「そうやって死体の中で倒れてると、さくらまで死んだみたいに見えるね」
「…ほんと神威さんって嫌な言い方しますよね」
「そうかな」
「そうです」
でも、とつけ足した彼がわたしの頭もとにしゃがみこんだ。神威さんの影で少しあたりが暗くなる。
「よく頑張ったね」
「……」
汗でおでこに貼りついたわたしの前髪を神威さんが持ち上げて、そんなことを言った。なんだか懐かしいその言葉の響きにとても安心する。疲れが一気に現れたのか、そこでわたしの意識はプツリと無くなった。
♂♀
「…ん、」
目が覚めた時、いちばんに見えたのは神威さんの後ろ姿だった。ソファーに座り、テレビを見ているように見える。頭しか見えないからあんまりわからんないけど。
見慣れた部屋だ、ここは春雨の船らしい、とだんだん覚醒してきた頭で考える。ここまで誰が運んでくれたんだろう。テロがあった建物から船まで結構な距離あったんだけどなぁ…その上春雨の船へも運んでくれたなんて。それよりわたしはどのくらい寝てたんだろ…
「(そういえばコレ神威さんのベッド…だよね?)」
なんかいい匂いする…香水とかじゃなくて、安心する匂いってゆーの?ってわたし変態っぽいな…。でも落ち着くし、もう少しこうしてたい。神威さんに起きてるってバレたら早々に追い出されそう。まあ気づいてないし寝たフリでもしておこう、掛け布団を鼻の先まで持ち上げピンクの頭を見ていた時。
「また寝るの?」
なんて言われた。
「……気づいてたんですか?」
「うん。こっち見すぎだからさ」
「アハハ…すごい」
いや、ほんと。
「なんか神威さんのベッド落ち着くんです。なんでかな。おっきくてふかふかだからかな」
「子供みたいなこと言うね」
「…すいませんね」
「もう大丈夫なの?」
わあ、突然の話題変更。せめて前置きかなんか、ねえ。気を失う前は痛かったところも、今はもうどこも痛くない。そんな意味を込めて笑ってみせた。
「はい、元気になりました!」
「さくらって意外と頑丈だよね」
「そうですか?まあ人より治りははやいってよく言われましたよ」
「ふーん」
ケガの回復スピードはかなりはやい方だと昔誰かに言われたことがある。それは嬉しいことだけど、そのせいなのかなんなのか風邪の治りは少しばかり遅い。
薬が大嫌いなわたしからしてみればキツいことだ。
…あ、そういえば。
「誰がわたしを運んでくれたんですか?」
「さあ、誰でしょう」
「うーん…阿伏兎さんっ?」
「ぶぶー」
「……(え、なにいまの可愛い)」
「正解は神威さんでした」
「え……神威さん!?」
「なに、俺が運んじゃダメなの?」
まるで拗ねた子供のような言い方に笑いそうになったけどそこはなんとかかこらえて。
(ってか自分で神威さんって!)
「ちがくて、ビックリしたんです!ごめんなさい、重かったでしょう」
「すごい重かった。さくらちょっと痩せた方がいいよ」
「…!そ、そこはお世辞でも軽かったって言うところですよおおお!」
「俺に嘘つけって言うの?ひどいなぁ」
「も、もういいですっ(ダイエットするもん…!)」
布団に頭まで隠れて丸くなる。ふんだ、神威さんなんてデリカシーなし男です。女の子の気持ちも知らないで、いくら事実だからってあんなこと言うなんて…。
「冗談だよ。出ておいで」
先ほどよりも彼の声が幾分か近くに聞こえることからこっちへ来たことがわかる。
「……」
「さくら」
「……」
「大丈夫、本当に軽かったから。だいたい夜兎の俺がさくらくらいを重いなんて言うわけないだろ?」
「…喜んでいいのか悪いのかわかりません」
「おかしいなぁ、喜ぶとこだと思ったけど」
「……喜んでるから大丈夫ですよ」
やっぱりわたし、神威さんには敵わない気がします。
(ところで任務は成功したんですか?)(当然)(やったー初任務成功!(グッ))
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