13
始まりの合図をきった神威さんはとってもかっこよかったけど隣からは動かない。だからわたしも動かない。いや、動けない。だって何すればいいのかわかんないし。そう思って立ったままの彼を見上げると、こっちを見てやはり笑っていた。
「あの…、何してるんですか」
「さくらこそ何してるの」
「はい?」
「早く行って雑魚共を追い払って来てよ」
「わ、わたしが!?なんで!?」
「なんでって、逆に聞くけどなんで俺がわざわざ雑魚を相手にしなきゃいけないの?さくらも働きな」
「そんな無茶な!わたしがあんなに大勢の天人を倒すんですか!?」
「できないの?あんなに虚勢張って言ってたのに」
「あんなにって……」
そこでハッとこの前のことを思い出した。確かに大声で言ったこともあった、だけどアレは…!
「わたしが言ったのは自分の身を守るってことですよ!」
「俺のことも守るって言ったよね?今あの大勢の敵から守ってよ」
「っ…!」
いつもの無機質な笑みとは違って意地の悪いそれを浮かべる神威さん。何も言い返すことができなくて、わたしは腰のベルトにかけたモノに手を伸ばす。
船をおりる前に阿伏兎さんがくれた、番傘。神威さんや阿伏兎さんなど夜兎族はこの傘を使って戦うらしい。「使いこなせねーだろーが気休め程度にはなんだろ」とだけ言って差し出してくれたのだ。相変わらず生気のない目だったけど、阿伏兎さんの優しさに少しだけ胸が熱くなったり。
ギュッと握りしめて中央の建物へと踏み出した。
「あ、行くんだ」
後ろでのんきに神威さんが言う。そんな彼には目もくれず、地球のそれより少しだけ柔らかい気のする地面を踏みしめていった。
「おいあんた、何してんだ!まさかこの中へ入る気か!?」
「はい」
「やめとけ!見ねえ格好だが、お前さんみたいな旅人が入っていくと怪我じゃすまねーぞ!あいつらは"まだ"人質を殺さねぇ」
「まだって言ったっていつか殺されちゃうでしょ?」
「だがっ、」
「いいんです。うちの団長、強いらしいですから」
「はは、結局人任せにするつもり?」
「まさか。頑張っちゃいますよ、わたし!」
「はいはい」
人混みを掻き分けて中へ入っていくと、大きな扉が視界をとらえた。隣から「でかっ」なんて声が聞こえたけど、適当に相づちを打ってからそれをに手をそえる。
「…っておもォ…!」
「……」
「ぐぬぬぬぬ…!」
「……」
「か、神威さん…!」
「ん?」
「ちょっとくらい手伝ってくれません!?」
「さくらの非力さに胸を痛めてたんだよ」
「……」
「ほら、入ろう」
いとも簡単にとんでもない重さの扉を開けてしまった神威さん(しかも片手!)に感激した。カッコイイ!
まあ開けたはいいけど、そりゃあ門番さんってのがいるわけで。中に入った瞬間、喉元に長刀みたいなものが突きつけられた。
「(や、やばい)」
「お前誰だ」
「(いきなりピンチだ……助けて神威さん!)」
って、"お前"?
お前らじゃなくて?
そう思って首を回すと、隣にはいるはずの彼がいなくて。まるでわたし1人で来ましたよ、てきな絵面になってた。……ウェアー!?
「わ、わた、わたしはですねっ…!」
あっヤバいテンパってきた。落ち着け落ち着け何か考えろわたし。そうして顎を少しだけ持ち上げ、見えたものに再び驚愕する。
「(神威さんんん…!?)」
いつの間にやら、我らが第七師団の団長は大きな扉の上に座っていた。閉められたら座るとこなくなるじゃんなんて思ったけど、それより行動はやすぎるだろあんたって気持ちが強かった。視線でヘルプを求めると、まるで相手にバレないようにするみたいに口パクで返事をした。
「(がんばれ)」
「(ムリ!たすけて!)」
「(はやくなんとかしないと死んじゃうよ)」
「おい、聞いてるのか!」
「ひいっ!」
ちょっタイムタイム、とりあえずその長刀(?)をしまってくれないと喋れないんですけど…!?ってゆーか神威さんちょっとくらいはわたしのこと助けようとかなんとか!つーか敵も気づけよバカ!
(お手並み拝見)
(ここで死んだら一生神威さん呪う)
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