lovin' rabbit | ナノ
 


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「わーっ!すごい!」



ガヤガヤと賑わうここは、昨日阿伏兎さんが言っていた「商業の盛んな星」。確かにそれだけ言われるにふさわしくすごく活気が溢れていた。お祭りにいるみたい…なんだか少しワクワクします。



「あんまりはしゃぐなよ」

「でも神威さんっ、すごく楽しそうです!」

「そうだね。でも少し落ち着こうね」



わたしは神威さんとこの場所に来ていた。わたしたち第七師団は1日目の午前と、3日目の午後が自由な時間で。最初はひとりで来るはずだったけど、どうして彼と一緒に来ているのか。それを説明するには2時間ほど前にさかのぼります。




────────




「阿伏兎さんー!」

「なんだ」

「わたし買い物行きたいんですけど、お金がありません」

「…おじさんからたかろうってか。末恐ろしいガキだねぇ」

「えへへ」

「えへへじゃねーよ。ったく、給料から引いてやるからなすっとこどっこい」

「ありがとうございまーす!」

「おいおい待て待て」

「えっ?」

「どこ行く気だお前」

「どこって、買い物に決まってるじゃないですか。服とか色々必要なんですよ乙女は」

「お前さんどうやって船から降りるのか知ってんのか」

「…あ」

「…こんなでけー船で迷子になられたら仕事が増える。今日は団長と行け」

「え?買い物ですか?」

「ああ。このままじゃお前さん、この星に置いてくことになりそうだからな」

「そ、それは困ります…!」



阿伏兎さんが恐ろしいことを言うので、わたしは神威さんの部屋へ行くことにした。だって本当に置いていかれそうで怖い。まあめんどくさがり屋なあの人が一緒に来てくれるかどうかは謎だけど。もし神威さんが来てくれなかったら阿伏兎さんのところに戻って、一緒に来てもらうよう頼もう。



「神威さんー」

「どーぞー」



ガチャ



「あの、神威さん買い物行きませんか?阿伏兎さんに1人で行くなって言われたんですけど…」

「…うーん、考え中」

「ええっそれなら行きましょうよ!」

「まあいいか。さくらになんか買ってもらお」

「これまだ阿伏兎さんのお金ですよ」

「どっちでもいいよ別に」



それから神威さんと船を出て人混みに向かって歩き、冒頭に戻るわけです。



「まずは何を買おうかなー」

「俺女の買い物に付き合うの初めて」

「本当ですかっ!ならわたしに似合う服選んでくださいよー!」

「さくらに似合う服?…アレとかいいんじゃない」



そう言って神威さんが指差したのは、着ぐるみだった。豚の。



「…どーゆー意味ですかっ…!」

「ほら、仲間だろ?よく似合うよきっと」

「神威さんひどいですっ」

「あはは、ごめんごめん」

「冗談抜きで本当に欲しいんですよ!普段着でしょう、パジャマでしょう、それから任務のときの服!」

「わかったからさっさと買って船に戻るよ。この星、俺嫌いなんだ」

「ぎゃっ」



神威さんに襟首を掴まれズルズルと身体が引きずられる。どうして嫌いなんだろ。ってか神威さんなんで傘差してるの?つーかやっぱり力強いですね、片手でわたしみたいな巨体運んじゃうなんて。



♂♀



「どうですか神威さん、似合いますか」


シャッとカーテンを開けてから神威さんの前でポーズをとる。ニコニコ笑ってはいるが、明らかに愛想笑いのそれだった。


「似合う似合う」

「本当のこと言ってください」

「さくらに水色は似合わないよ」

「まじですか」

「うん。ピンクとかオレンジとか黄色とか、暖色系の方が似合う」

「すいません、これのピンクってありますか」

「少々お待ちください」


少しして店員さんが持ってきてくれたピンクの服───それはとっても可愛いワンピースだった。試着して神威さんに見せると、「可愛い可愛い」と軽く拍手してくれて嬉しかったので購入した。他にも普段着にできそうなものを数着。どれも暖色系って、単純だなぁわたし。そう思って店を出ようとしたら、店員さんに止められて。


「とっても素敵な彼氏さんですね。彼女に似合う色を言ってくれる彼氏さん、珍しいですよ。すごくかっこいいし!」


そんなことを言われた。か、彼氏じゃないんだけども…!否定する間もなく見送られたけども。それにしても神威さんはやっぱりかっこいいのか。ちらりと見上げた横顔。…初めて見たときからストライクだったよわたし。そういえばさっきからまわりからの視線が痛いような…。


「あの人かっこいい」

「横の女の子は?」

「彼女かしら」

「まさか」



「神威さんっ!次は任務用の服、買いに行きましょ!」

「はいはい」

「(彼女じゃないけど……わたしは神威さんの部下だもん)あ、この店いいかも」

「ふーん」

「すいません、これ試着してもいいですか?」

「どうぞー」


手にとったのは珍しい服だった。服って言うより…履き物?デニムでできているらしいこれはショートパンツと言うらしく、太ももが出たもの。太い足をさらしてしまうことが気に引けたけど、あまりの動きやすさにすごく気に入ってしまった。それから上も長袖と半袖のものを各数枚選んで、最後に履き心地の良いロングブーツを買って店を出た。


「わりと早く片付きましたね」

「俺にとっては長かったかな」

「まじですか」

「うん」

「じゃあわたしが何か奢ります!阿伏兎さんのお金だけど」

「コロッケ食べたい」

「了解!」


(ちなみに下着もちゃんと買いましたよ)(当たり前みたいに中に入ってきた神威さんは即追い出しました)

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