07
昨晩不覚にも神威さんの笑顔にときめいてしまったわたしはうっかり名前のことを忘れていました。そうだ、どうして名前を呼んでくれないか気になってたんだった。
ということでやってきました、神威さんのお部屋。コンコンとノックすると中から「どーぞー」と部屋の主の声が聞こえた。
「お邪魔しまーす」
「どうしたの?」
ソファーに座ってテレビに向けていた顔をこっちに向ける神威さん。第七師団って暇なんだなと改めて実感(団長が昼間からテレビて)。
「えーとですね、その、」
…なんとなく聞きづらい。よく考えればわざわざ部屋まできて聞くことでもなかったかも…!食堂とかでさらっと聞けばよかった!
おどおどするわたしに神威さんは怪訝そうな顔をする。それからポンポンと自らの横を叩いて、「座れば?」と言った。…神威さん優しい。お言葉に甘えて座らせてもらおう。
「で、どうしたの。聞きたいこと?言いたいこと?」
「聞きたいことです。…えっと、神威さんってわたしのこと名前で呼ばないじゃないですか。なんでかなーって」
「ああ、そんなこと。そんなの簡単なことだよ」
「なんでですか?」
「あんたの名前知らないから」
ガーン。べたな効果音だけど、いまのわたしにはぴったりだ。そんな……もうここにきて1週間がたったのに…!まだ覚えてもらってなかったなんて!
「し、知らないってゆーか覚えてないだけですよねそれ…!」
「覚える気無いからね」
「ええ!?」
ひどい!いくらなんでもそれはひどい!わたし一応神威さんの部下なのに…!付き人なのに…!
「だってあんた、すぐ死んじゃいそう」
「はい?」
「弱っちそうだからね。俺は守るのなんて御免だしさ。すぐに死んじゃうなら覚えるだけムダだろ?」
その言葉にカチンときた。なんだこの人。全然わたしのこと、見てくれてない。素敵な笑顔を見せたって、優しく『ただいま』って言ったって、何にも見ちゃいない。
「勝手に殺すな!」
思った以上の大きな声に自分自身少し驚いた。
「わたしは死にません!神威さんに守られなくても自分の身くらい自分で守れます!どんな敵が来ても必ずやっつけてやります!むしろ神威さんも守っちゃうくらいですよ!だから勝手にわたしを殺さないでください!名前覚えてムダだったなんて絶対に絶対に思わせませんから!」
言ってやった。だってこんなの、酷すぎる。
「……何それ」
神威さんはというと、いつもの笑顔もなく目を開けていた。綺麗な、藍の瞳。サーモンピンクによく似合う色だ。……ああ、またみとれてしまった。
「俺、嘘つきは嫌いだよ」
「う、嘘なんかじゃありません。私も嘘つきは嫌いです」
「へえ。なら、楽しみにしておこうか。あんたが嘘つきになる日を」
「…それって死ぬ日ですよねやめてください気分悪い」
「今度からさくらも任務に連れていこうかな。実はけっこう暇なんだ」
「どっちの理由で連れてくんですか。暇潰し?それとも死ぬように?」
「どっちも」
やっぱり神威さんは優しい人じゃありません。でもいい人だとは思います。……ってか神威さんいま名前呼んだ!
(あの、もう一回呼んでください)(さくら)((きゅーん)て、てゆーか名前知ってるんじゃないですか!)(今思い出した)
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