short | ナノ


青い春は消えた

数年前の自分は、成人した自分の姿なんて想像することもできなかったな、と。私、名字名前はお酒を飲みながら考えていた。

同窓会の二次会だー!ととある人の掛け声で駆け込んだ、というか、仕事の早い誰かさんが予約していた居酒屋に駆け込んで、皆であの頃を語りながら酒を酌み交わしている。

雷門中学サッカー部の同窓会だ。

もちろん掛け声の主は我らがキャプテンこと円堂で、仕事の早い誰かさんは鬼道。
今年成人を迎えて酒を交わせるようになってから飲み会に誘われるようになったけど、実はお酒に挑戦したのは1ヶ月前だ。
両親共にお酒に弱いから、遺伝でお前も弱いだのなんだの言われて飲む気は失せてしまいズルズル引きずった結果である。初挑戦したお酒で顔は真っ赤になって、笑えるくらい見事に遺伝していた。
別に酒や煙草に憧れていたわけではないし、そこまで不便というわけでもないけれど。

「名前ちゃんお酒弱いんだ?」

目の前に座っていた秋ちゃんからの問いかけに、すでに酔いが回ってふわふわした頭で答える。

「そっかあ、遺伝だと仕方ないね」
「そういう秋ちゃんもお酒飲んでないよね?」
「私もあんまり飲めなくて」
「わあ一緒だー。みんな結構飲んでるから秋ちゃんもいける口なのかと」

北から南までメンバーが集まる中、ほとんどの人達が豪快な飲みっぷりを披露しているから、一人浮いているんじゃないかと不安だったけど大丈夫かな。

「なんだ名前と秋。飲まないのか?」
「ごめん円堂、私も秋ちゃんもお酒苦手で」
「そっかー、残念だな!」
「ところでさ、さっきから夏未さんがソワソワしてるのは気のせいかな…ふぁ」
「おーい、起きろー。えっと、まぁ、あれについてはもうすぐ分かるから!なっ!」
「なんだそれ…」

意味深な発言を聞いた後も私の上瞼と下瞼はくっつこうとするのを止めず、それを見かねた円堂が唸りながら「みんな聞いてくれ!」と声をあげた。
声でかすぎてうるさい。
ソワソワしていた夏未さんはビクリと反応した。うーん、これは一体?
なんだか嫌な予感。

「俺、円堂守と雷門夏未は!結婚します!」
「…………は?」

ええええと驚きの声がしたあと会場が盛り上がる。
なんだなんだ、一体全体どいういことだ。眠気冷めたわ。
秋ちゃんも驚き顔になったけど笑顔になった。ああ、この子は夏未さんが円堂とくっついてることを知っていたのか。そうだもんな秋ちゃん円堂のこと好きだったし…知らなかった私はどうすればいい。

私も好き、だったんだけどなぁ。円堂のこと。
ひっそりと乾いた笑みを浮かべて、盛り上がる輪には混ざらずお酒を飲む豪炎寺と鬼道の元に向かった。
こちらに気づいた二人が二人の間にスペースを作ってくれる。ありがたくそこに座った。でも何故真ん中。

「やっほー」
「お前は向こうに混ざらないのか」
「その台詞はお二人にそのまま返すよ」
「俺たちはもう知ってたからな、最初に聞いた」
「なるほどね。それにしてもあの二人が結婚するのかぁ」
「ん?なんでそんな残念そうなんだ、祝ってやらないのか?」
「鬼道…いや、今更どうにもできないのは分かってるんだけど、好きだったからちょっとショックで」
「…そうか、それは残念だな」
「告白しなかったお前が悪いな」
「豪炎寺それは酷いよ?!でも反論しようがない…」
「お前には円堂よりいい相手が見つかるさ」
「二十歳超えて彼氏なし程辛いものはないですよー」
「鬼道は仕事が恋人だからな」
「財閥子息め…」

結婚の話題は尽きることなくまだまだ続きそうだったが各自事情もあるため、お開きにしようということになった。
詳しいことはまたな、じゃあと別れていくみんなに私もまたねと手を振って別れる。
私は最後の方まで秋ちゃんと残っていた。

「秋ちゃんさ、円堂のこと好きだったんでしょ」
「え!?ばれてた…?」
「そりゃバレるよ。分かり易かったよ」
「そっか…そんな時もあったかな。でも今は友達として見てるよ」
「ふーん。私はもうしばらく傷を癒す!私達もいい人見つけようね!」
「えっ、と。言いにくいんだけど…私彼氏いる…」
「……おぉ、誰や」
「いち、のせくん…」
「結局くっついたのか!よかったね一之瀬!私地味に応援してたんだよ!」
「あ、ありがと…?」
「うんまた話聞かせてね!木枯らし荘遊びに行く。いや押しかけるから」
「あはは、押しかけないで遊びに来てね」

私は笑顔で手を振って秋ちゃんの姿が暗闇で見えなくなった後、一つため息をついてまだ残っているさっきの2人の元へ行った。

「秋ちゃん一之瀬くんとくっついてた」
「一之瀬か。あいつあれだけ大胆だったのに思いを告げるのは遅かったのか」
「もう何も信じれない…春奈ちゃんは」
「そんな話は俺は知らん」
「ですよねー…あとは冬っぺだな…ううっ。そろそろ二人共帰る?」
「そうだな、帰るか」
「名前、家まで送る」
「え、いいよタクシーでも捕まえて帰るし」
「いや、時間も時間だ。そこは甘えておけ」

鬼道は豪炎寺に謎のアイコンタクトを取っていた。男達の考えはよく分からない。

「う、ん?じゃあお願いしようかな?」
「ああ、鬼道感謝する」
「頑張れよ、豪炎寺」
「何の話?」
「気にするな、行くぞ」

鬼道に手を振って豪炎寺と街灯の少ない道を歩く。
雰囲気が呑気に喋れるようなものじゃなくて、自然と会話はなく、なんだか居づらい。
さっきはぐらかされた事について聞いてもいいけど、聞けない。爆弾踏みそう。

「なぁ」
「えっ、な、なに?」
「円堂のこと、諦められないか」

なんで、そんなこと聞くのか。
傷を抉りたいのか。落ち着いた心が痛い。

「諦めざるをえないでしょ。お嫁さんがいるんだし」
「好きなやつとか、いないのか」
「なんなの?いないに決まってるでしょ!もう、からかってるならいい加減に!」
「俺じゃ、ダメか」

少し冷えた夜風に当たっていたはずなのに、温かさに包まれた。豪炎寺に抱き締められたと気づくのに時間はかからなくてジワジワと顔が熱くなる。

「酔ってるの?」
「いや、とっくに冷めてるさ。前からお前のことが好きだった。それだけだ。弱ってる時にこんなこと言って悪い」
「うん…ありがとう。返事はその…」
「いつでもいい、いつまでも待ってる」

繋がれた手を、私は振り解かなかった。
ただ、温かくて離したくないと思った。

青い春は消えた

(さらば青春、来たれ大人の恋)



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