short | ナノ


朱に染まる水平線

私の彼氏は、そこらにいる運動大好きな活発系高校男子ではない。
行動を起こすのにも誰かが話をしたらか、自分のやりたいのとか。
学校が面倒臭ければ休むなり早退するなりご自由に過ごしている。
そんな彼が珍しく学校をサボりもせず、自分から私を放課後デートに誘ったのには正直な話、驚きを隠せなかった。
明日は一体何が降るのやら。思わず窓の外を見てしまったのは内緒。

どこに行くのかと午後の授業は自分から挙手するほどうきうき、わくわくしていたわけだけど頭の片隅にあった考えが虚しくも当たってしまった。

まぁしょうがない!だってハルだもの!目の前の海を見て叫びそうになる。

いいけどね、珍しいことだし、こんなことって滅多にないし、夕陽が当たる海は綺麗だし。

仲良く恋人繋ぎをして海岸を歩く。
ローファーがしゃりしゃりと砂の音を奏でた。

その音と波の音が心地良くて立ち止まりそうになる。

ハルもそうなのか歩くのをやめ、何も言わずに二人揃ってその場に腰を下ろした。

暫く波の音を堪能していたけれど、繋いだ手の力が少し強くなって私は確信する。

あぁ、何かあったんだと。

「何かあったの?」
「…別に」
「ウソ。ハルからデート誘うなんて何かあったとしか思えないんだけど」

お前の中の俺ってなに…なんて言葉が小さく聞こえたけど私は彼からの言葉を待つ。ぎゅっと同じ力分手を握り返すと黙るのを諦めたのか渋々と話してくれた。

真琴が名前に無愛想にしてると嫌われる、気持ちは出来る限り伝えた方がいい、と言ったこと。

私はきょとんとしてしまった。
真琴が心配するような所は何一つないはずだ。もう手だって繋いでるし、ぎゅーもする。今みたいにデートだってするし、まぁデートの誘いをかけるのは私からのが多いと言えば多かったけど、一体真琴は何を心配したのか。

「んー、つまり?」
「き、」
「き?」
「き、す、したい…」

俯いている顔を見れば耳が若干赤い。思わずキュンとしてしまった。何この子乙女か。

「別にいいよ?」

途端ハルの目がいっぱいに開いて私を見る。本当にいいのか?なんて、逆にどうして駄目だと思ったのか…
苦笑をこぼして、むしろバチコイと言えば今度は緊張した顔付きに。これまた珍しく表情ころころ変わるなぁと笑ってしまった。
再度いいよと言えばふっと柔らかい笑みをして今度はこっちが赤くなる番。
くそうかっこいいじゃないか。

私たちは朱く染まりゆく海に見守られて、付き合って初めてのキスをした。

朱に染まる水平線

( 水が好きな彼には、とてもぴったりな風景 )



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