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事務所に行けば、珍しくオロオロしている優太とぐすぐすと泣く名前、その名前の頭を撫でる圭がいた。

何があったのかさっぱりな光景に
俺は驚いて慌てて駆け寄る。

「どっ、どうした名前!?」
「名前ちゃん因幡さん来たよ」

圭がそう伝えるや否や名前はタックルする勢いで抱きついてきた。
突然の正面からの攻撃にバランスを崩しそうになったけどなんとか耐える。

「いっ、っなばさぁああん…ひっく」
「おう、どうした?何があった?」

俺の胸で泣きじゃくる名前を落ち着かせるため抱き締めて頭を撫でてやった。

いつも明るくて笑顔の絶えない彼女がこんなにも涙を流す姿は、出会ってから一度も見たことがなくて。
余程の事がない限りこんな事にはならないはずだ。

「ゆっくりでいいから。話して名前」

あやしながら言ってみれば彼女が俺の胸から顔を離して(ちょっと残念とか思ってねーし)自分の腕で涙を拭う。

「あの、ね。きょーね、事務所に来るために、っ、いつも通り電車に乗ったの。そしたら…っ」

そこまで言って下唇を噛む。

ゆっくり、ゆっくり聞けばいい。焦るな俺、嫌な予感がするけど落ち着いて聞くんだ…!

「うん。そしたら?」

彼女は暫く下唇を噛んだままだったけど、言う決心がついたのか口を開いた。

「……痴漢、にあった……の」

聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で彼女はそう言った。
再び電車での出来事を思い出したのか
肩を震わせ泣き出す。

相変わらず圭と優太は不安そうにしていたため俺は目で大丈夫だと視線を送り名前に視線を戻した。

「話してくれてありがとな。大丈夫、安心しろ。俺がそいつを探し出すから」
「私の毛でも荻さんに頼んででもいいから…何でも使ってもらっていいからっ…犯人捕まえて…ぐすっ」
「…お前の毛は借りるかもしれないけど今回ばかりは荻は使えないな」
「え?」

だって、


こういう時は俺に頼れと言っただろ?

(名前の毛を借りて犯人を瞬殺した俺が)
(名前に二度とこんな思いをさせないために)
(一緒に暮らし出すのは、また、別の話)


勝手ながら「!」を「?」に
変えさせていただきました。