「いった…」
「大丈夫か?」
「んー、平気平気。慣れてるし」
「…お疲れ」
「…うん」

戦いは終わった、なんて言うと厨二臭いセリフになっちゃうけど、おばさんとの関係に一区切りついた、とでも言えばいいのだろうか。

そんな感じ。

さっきの出来事を簡単に話すとすれば、荷物を凛に預けて家に戻るとちょうどおばさんが帰ってきたところで、どうして外にいるんだ、晩御飯はどうしたんだとでも言いたそうな顔で迎えられた。

そんな顔されても慣れているから、私はしっかりと向き合う。


「話があります」と。


いつでも逃げれるように財布や私を捨てた親が大量のお金を残した通帳なんかが入ったこれからの生活に大切な物を詰めた鞄を玄関に置いておき、リビングから玄関に続く逃げ道となるドアを解放したまま私は話をする。

不満を全て吐いてから最後に今までありがとうございましたと告げると、おばさんは私を殴り、蹴っ飛ばした。
壁にぶつかった背中をさすっていると、おばさんはキッチンに向かい私を殺しそう…むしろ殺そうとする勢いで包丁を取り出したため慌てて外に逃げた。

凛は何事かというような顔をしていたけど、殺されるとだけ叫べば託した鞄を全て肩にかけて、駅までの道を全力で私の腕を引いて走り、なんとか着いたってわけ。
最悪私の身に何かあっても誰かしら私の叫び声を聞いているはず。

そんなこんなで、ただいま電車の中。

「にしても危なかったな」
「いや、本当に包丁取り出すとは思わなくて吃驚したわ…」
「警察には行かねぇの?」
「んー、少し考えてからにしようと思ってる」

田舎のこの時間に電車に乗る人なんて誰一人いないわけで、貸切となった電車内に私達の会話が響く。

暫くして松岡家の最寄りの駅に着いたらしく、私は軽めの荷物を肩にかけ電車を降りた。

後ろで凛が睨んでる気がするけど知らない。

男なら何も言わずに重い物持ちなさいよ。

しかし先に降りた所で私が凛の家を知るわけがないので改札先で待つこととなった。

すぐにやってきた凛は、能面みたいな顔をしてやってきて流石にもう一つ荷物を持とうと思ったけどなんだかんだで優しいんだよね、凛。

俺が持つからいい、なんてさ。

「今度なんかしろ、礼」
「言われなくても。なんか奢ってあげてもいいよ?」
「なんで上からなんだよ」

街頭の少ない暗い道を少しばかり歩いてすぐの家で、凛はインターホンを押した。

ここが松岡家かぁ、なんて呑気に家を見上げる。

すぐに勢いよく扉が開いて、江ちゃんが飛び出してきた。わぁ、元気だなぁ。

「名前先輩こんばんは!今夜はうちでゆっくりしてくださいね!」
「うん、ありがとう。お世話かけます」
「お世話しますー!あ、お兄ちゃんここまで送ってくれてありがとう。名前先輩も無事に着いたし荷物おいて帰っていいよ?」
「実家でゆっくりする権利はねぇのかよ!」
「だって寮戻らなくちゃいけないじゃない。ほら時間!」
「…チッ。じゃあまたな」
「ありがとう凛、おやすみ」
「お兄ちゃんおやすみー!」
「…おやすみ」

凛が帰るのを見送ってから二人仲良く荷物を運んだ。
お世話になるのは今夜限りだから、荷物は庭先にでもと言うと盗まれたらどうするんですか!と怒られてしまった。
最終的に凛が使っていた部屋を借りることとなり荷物をそこに置く。
凛母に挨拶することも忘れず、早速晩御飯とお風呂をすすめられ、手早く済ませる。

その日は明日学校もある、ということから長話も程々に布団を借りた。
江ちゃんは私と話をする気満々だったけど私は心臓に悪い体験をして疲れきっていたから、すやすやと眠りに入る。

また明日お話しようね。

(また明日、その言葉を久しぶりに安心して言えた)
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