「ね、ねぇねぇ?一体どういうこと?」

落ちたトロフィーを拾って、俺たちの方に方向転換した渚が問いかけた。

「名前は、ね。変わったんだよ、あの頃と」
「…真琴、なんで凛に嘘をついた」
「ええ?!もう!どーいうことなのっ!ハルちゃん!まこちゃん!」
「…同じ学校にいるんだし、渚にも話すよ」

中学3年の頃だった。

進路もだんだんと決まり始めた頃、引っ越すかもしれないんだ、と辛そうな笑顔で話してきた名前に、俺たちは「ご近所さんじゃなくなっちゃうんだね」と心から悲しんだ。

小さな頃からずっと一緒だったんだから、そう思うのも仕方ない。

その日の帰りは委員会やらなんやらで名前とは帰れなかったから、どこに越すかも聞けなかった。

明日聞こうと、翌朝集合場所となっている階段に行けば名前の姿はなく、代わりに1枚のメモ用紙が石に抑えられていて、先に行くの文字。

何か用でもあったんだろうと思いながらハルと学校に行けば、名前は自分の座席に既に着席していた。

声をかけるも返事はなし。
何かしてしまったかと不安になり問いかけてみるも別にの一言で…
その日から名前の俺たちに対する態度が変わった。

話しかけようと近づくと友達のところへ逃げるように消える。

そんな日々が続いて、俺とハルの進路先が決まった時、俺たちは名前と本格的に話す事を決めた。

帰り道、名前の家の前で待ち、帰ってきたところで腕を掴む。
ちょっと強引だけど、仕方ない。
離してと抵抗するのは予想済みで、壁際に追い込んで話を聞き出す事に成功した。

それでも中々口を割らず、引っ越し先と日付は聞き出せたけど態度が変わった理由だけは教えてくれなかった。

ハルが一言早く言え、と言った途端急に話し出したけど、その発言に俺たちは酷く怒った。

「正直もううんざりしてたの、中学生にもなって一緒に登下校してくるし、学校だとお昼だとか移動教室だとか毎日一緒に過ごさせられるし。
それに私SCがあった頃は水泳好きだったけど、今は別に…いや、大っ嫌いなんだよね。
あぁ、ごめん。間違えた。水が嫌いなの。
体に纏わり付くみたいで、あんたとは正反対!」

もちろん俺も怒ったけど、いつもは何を言われても落ち着いてるハルがキレて名前に飛びかかろうとした。
女の子相手にそんな事をさせるなんてできず、慌ててハルを抑える。

少しの沈黙のあと俺はもういいとだけ告げてハルと家に帰った。

お互いの進路先も知らないまま、関係も変わらないまま、中学を卒業して高校入学。

それで今になる。

「俺は、今はもう怒ってないんだ。
ただ、何があったのかだけ知りたい」
「そんなことがあったんだ…」
「ハルは、名前のこと」
「嫌いだ」
「即答か…はは」
「僕、名前ちゃんに聞いてみようかなぁ。だってさ、中学時代は一緒に過ごしてないじゃん?僕だったらいけるかも!」
「うーん、そうだなぁ…確かに渚なら…」
「でしょ!ってことで明日聞いてみるね!」

行動力のある渚なら、本当に明日やるだろう。

トロフィーを投げて行った凛についても知るべきだけど、まず優先するのは名前のことだ。

(俺たちの何かが、少しずつ変わろうとしていた)

そんな気がした。
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