俺の、片思い。
 いつから好きだったんだっけ。幼稚園から現在の高校までずっと一緒だったから、ざっと15年は想い続けているような気もする。1年は365日だから、ええと、5475日か。日にちに換算すると、途方もない数字だ。全くと言って良い程、現実味が湧かねえ。けど、実際に5475日以上、顔を合わしてきた(なんたってお隣さんである)。
 そして不器用な俺は、何も言えずにただただ毎日を消費していく。もし、どこかで勇気を出して告白していたなら。この環境は変わっていたのかもしれない。
 そんな事を悶々と考えていると、誰かがあいつを見てつぶやいた。「相変わらず面倒見いいよな」何も知らないくせに。クラスメートが呟いた言葉に、耳をふさいだ。

「平助くん。」

 とっさに耳を覆っていた手を外す。目の前に机に背丈を合わすように屈んでいたのは、言わずもがなあいつだ。急いで顔を上げる。うわっ、どうしよう。何?なんて言い方したら怖がられるよな、時間ねぇぞなんて言ったらもう来てくんねぇよな――。そんなことはないって分かってんのに、頭の中を無駄な思考が行き来する。ぐるぐるぐる。目が回りそうだ。

「――平助…?」
「っ、悪ィ。考え事してたわ。」
「そっか。聞こえてないのかと思っちゃった。」
「それはないから安心しろよ。」
「うん。ありがと。」

 こいつの声を、聞き逃すはずがない。だから、反応が遅れたのは許してくれ。

「あっ、でね。本題なんだけど。」
「おう。」
「駅前に新しいクレープ屋さんが出来たんだって。だから、一緒に行きたいなって思って。どう、ですか?」

 行かないという選択肢は、端っから存在しない。たとえ、いくら大事な用があったとしても。

「行く。」
「やった!平助ならそう言ってくれると思ってたんだ。」

 ふわりと、ほほえむ。それは、荘厳な羽を広げた孔雀を連想させた。観るものを魅了するような、華美な笑みだった。
 そうして、彼女は時計を見てから「もう時間だ。」と呟き、自席へ戻る。遠くの方から、「藤堂とあいつって仲良いよな。」「付き合ってんじゃね?」と聞こえてきた。さっきの奴らだ。心の中で返事をする。――残念ながら、それは違うけどいつか、なれたら良いなと思う。
 今の俺には、こいつの笑顔を側で見られるだけで満足だ。だって、それだけで世界は満ち溢れてる。

(だからと言って、譲る気はさらさらねえけどな)


thank...綾瀬様
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