冷たい校舎内から外へ出ると北風が目に染みた。
頬にチクチクと、あまり感じたいとは思わない痛みを感じながら少し早足で歩く。
マフラーも手袋も今日は役割を果たしてくれない。そのくらい、寒いのだ。

「冷たいなぁ、今日は」
「ホントにな」

ふと、一人言のつもりで呟いた言葉に返事が返ってきた。俯いていた頭を上げれば、校門の前には見知ったオレンジ色の男の子。

「一護…先に帰っちゃったのかと思った」
「まさか。校舎ン中で待ってたら越智サンに追い出されたんだよ。子供は風の子だって」
「ふふっ。越智先生らしいね」
「…だな」

他愛もない話をしながら彼と二人で帰路に着く。今の私にとってこれが一番の幸せだ。
ただ、敢えて不満を言ってみるなら彼が何か隠してるってことくらい。

彼のすべてを知りたいなんて思ったことは一度もない。元来私は付かず離れずの関係が好きなのだから。
ただ、彼の隠し方があまりにも下手すぎて。バレてはいないが、あぁ何か隠し事をしてるんだなってすぐにわかった。
知りたいけど、知りたくない。そんな矛盾した思いが私の中にある。
知ってしまったら最後、彼が何処かへ行ってしまいそうで。知らなければ最後、何故だか私は一生後悔してしまいそうで。

だから私は、彼が自分から話してくれるのを待つことにした。
風が冷たい。こんな日は無意味に後ろ向きになってしまうから嫌なんだ。

「お、雪」

彼が発した一言をきっかけに灰色の空を仰ぐと、ちらちらと白いそれが地上に落ちてくる。
今日の冷たさの原因はこれだ。

「積もるかな、」
「多分…」

いつかこの雪が積もって、溶けたとき。それが澄んだ冷たい水になったとき。
私は今ある感情をすべてそれに流して。たった一つ、あなたとの幸せを残せればいいのだけれど。

泳いで泳いで、水面下にすべてを振り落とすことが出来ればいいのだけれど。
小さな子供じゃないのだから、それが無理なことは知っている。
それに私、泳ぎは苦手だから。

「…一護、肉まんと餡まん買って半分こしよ」
「いいぜ。丁度腹減ってるしな」

もう余計なことは考えずに、今を楽しめればそれでいいのかもしれない。
私はそれで満足なんだ、きっと。

アンダー・ウォーター・ラビリンス

少しだけ、その冷たい水の中にあなたの隠し事があればいいのになって
本当に少しだけ、そう思ってしまった

執筆...チビ様
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