四月、校門を目前に浮かない顔をしているのが私。春休み中にクリーニングへと出した制服はパリッと固い。馴染みがなくなっているのも原因だった。けれどそれは些細なことで、主な原因は下駄箱前に貼り出されるクラス分けだ。
一年生で同じクラス、二年で別クラス。自分の名前を探すより先に探すんだろうなぁと深い溜め息を吐いた。同じクラスになれるよ!と友人から教えられたまじないをしてみようと、組み合わせた手に向かってぶつぶつ呟く。訝しがる人は気にしない。
「おはようございます」
「あ!おはよう、柳生くん」
背中を丸めていた私に声をかけたのは二年からの友人、柳生くん。眼鏡を押し上げて、私の肩にのった桜を払う。
「お祈りですか」
「どっちかって言うとおまじない」
こうやってね、と手を組み合わせてまじないの言葉を説明すると、必死ですねと柳生くんに微笑まれたた。男と女は環境が変わると大変なのよとませ始めた妹が言っていましたとも。なんだかなぁ。
「叶いそうですか」
「どうかな…」
「今なら空いているでしょうから行きましょう」
組んでいた手を解いて、今度は掌をすり合わせ始める。まじないでも何でもなくて、ただドキドキするだけ。それほどまでにね…。昇降口前に置かれた掲示板。クラス分けに備えていつもより掲示板の台数が多く、少し早い時間のせいか生徒は少なかった。
「うわぁ…」
「さて。おや、私はA組ですね」
柳生くんはA組の名簿を下から確認し、すぐさま見つけた。良いなぁと口を尖らせると一緒に探しましょうと掲示板に視線を戻した。優しい、とにかく優しい。
「そう言えば、先程はどなたと同じクラスになりたいと?」
「えぇ…。あぁー。うん」
「おや。女性ではないようですね」
うろたえてしまう。柳生は仁王くんなら追及するでしょうが、と私は気になりませんよと。そしてすぐに、私の名前を見つけてくれた。
「同じクラスでしたよ」
「本当だ!」
「真田くんも一緒ですね」
これはなかなか大変なクラスですね。柳生くんは楽しそうに笑う。が、私はそれどころではない。
同じクラスになりたいけど、同じクラスになりたくない。その人が真田弦一郎だ。なにを隠そうか。真田くんに片思い中。一年生で同じクラスになった時、クラスの男子とは違う一面を見てから。二年になって、真田くんのことを柳生くんから聞き出そうかと思ったけど、度胸もなく。柳生くんとの友情は育まれた。
「どうかされましたか?」
「ううん。よろしくね」
「はい」
颯爽と教室へと向かう柳生くん。あとを追うと下駄箱で「そういえば」と話を切り出してきた。何か提出物でもあったのかな。
「おまじないは叶いましたか」
「へ」
これですよと真面目な顔で私が友達に教えてもらったおまじないを再現してくれた。こんな姿、滅多に見られない。
「叶って良かったのか分かんないかも」
「何かあったのか?」
「おや、真田くん。今年もよろしくお願いします」
柳生くんがおまじないを解いて軽く右手を挙げた。私の後ろには真田くんがいた。小脇に抱えた鞄には見慣れている黒い帽子が乗っていて、肩にはテニスの鞄。
「今年は同じクラスか。寝るなよ」
「一年生で?私は彼女と去年、同じクラスでしたよ」
「そうか。よろしく頼む」
私を捨て置き、頭の上で会話をする二人。置いていかないでよ。全くもう。
「おやおや」
「む」
心の中で思っていたことが顔に出ているようで、まるで妹や甥っ子の機嫌を直さんばかりの二人。あぁ、もう!
「早く、教室に行こう」
「そうですね」
「走るな」
片思いも良いけど、ほらまださ友達でも良いかなぁって思っちゃった。二人に一番近い女子でいたいと思うのは我が儘かな。
散歩がてらに戸惑う歩数
執筆...睦月海藻様