「会いに行かないのですか?」

「…え?」

 夏目のその一言は、何の脈絡もなく唐突に発せられた。


  *  *  *  


 夕食を終え、夏目と芥川は何を話すでもなくお茶を飲んでいた。
 食事を終えたあとお茶を飲むことも、その間会話らしい会話をすることがないのもいつも通りであったし、このあたたかい時間が芥川は好きだった。時折、どちらかがこういうことがあっただとか、それに対する意見だとかをぽつりぽつりと話すということを繰り返していたときだった。
 夏目が、会いに行かないのですか?と漏らしたのは。
 先ほど話していた内容とも全く関係がなく、誰にとも言われなかったが、芥川にはそれだけで十分すぎるほどだった。

「え、あ、…ぅ」
「…行かないのですか?」

 内容を察してしまった芥川は、いつもは白いを通り越して青白い顔を赤くしながら言葉を詰まらせた。そんな芥川を見て、微笑みながら夏目がもう一度繰り返した。
 芥川とて、会いたくないわけではなかった。寧ろ、会いたくて仕方がなかった(本人には言ってやるつもりはない)のだが、いかんせん、生来の性分がそれを口にし、行動にする事を許さなかった。そのおかげで、ここ一週間ほど芥川は太宰と会っていなかった。

「…会いたく、なくはない、です」
「会いたいんでしょう?」
「べっ、別に…!!」
「会いたいんでしょう?」
「…っ!!」

 優しく微笑みながら問う夏目が、芥川にはひどく意地悪く感じられた。曖昧に誤魔化し、意地でも心のうちを明かすまいとする芥川に、夏目はそれを言えと満面の笑みで迫った。
 芥川は、暫くの間耳まで赤く染めながら言葉にならない声に口をぱくぱくさせたあと、俯いたまま小さな声で、会いたいです、と言った。

「ふふふ、では、行っていらっしゃい」
「…へ!?」
「明日、明後日と私は家を家を空けますから。」
「え!?」
「だから、行って、ついでですから泊まらせていただいては如何ですか?」
「……な、っ!!」

 夏目は、いいことを思いついたとでも言わんばかりに笑顔でそう言った。そんな夏目の言葉に、芥川はただただ驚く事しかできなかった。
 手も足も出ない芥川に、止めとばかりに夏目が告げた。

「行ってきなさい」




わたしを救う訪い気
(本当は行きたかったの)


11/02/06

わたしをすくうといきシリーズ一つ目。
一話一話が短すぎるwww

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