冷たい色だった。
黒く覆われた隙間から、少しだけ暗い青色が見えているが、明るい光は閉ざされたままだった。
その隙間からだけでなく全体から透明な冷たいものが降ってきて少年を濡らし、少しずつ、でも確実に熱を奪っていった。
しかし、濡れることも熱を奪われることも厭わずに少年は空を見上げて居た。
「威迥…!!」
後ろから心配したような、安心したような声が響いた。それと共に水を跳ねる一人ぶん、いや、二人ぶんの足音がした。
「……」
威迥と呼ばれた少年は少しだけ振り向き、しかしまた空に視線を戻した。その目は昏く、何も映ってはいないようだった。
「っ威迥…!探したんだよ?ねぇ、帰ろ…?」
金髪の少年が威迥の腕を取りながら云った。その声音は、今にも泣き出してしまいそうな程だった。
しかし威迥はそのようなことを意にも介さず、その手を振り払った。その勢いのまま半歩間をとり、昏い目を上げて云った。
「どこに帰るって言うんだ?帰る場所なんかあるのか?いいや、ないね。何処に行こうと、もう、あの人はいないんだ。帰る場所も、帰る理由も、なにももうありはしないんだ…もう、いいから!!…いいから、おれのことは放っておいてくれ…」
そう、一息に言い切った威迥は、その場に崩れ落ちた。その薄い肩で息をしながら寒さに震えている。
「ねぇ、確かにもう居ないよ。でも俺たちは生きろって言われた。生きなきゃいけないんだよ…」
禹伊はそう言うと淋しそうに笑いながら涙を溢したようにみえた。酷い雨のせいで雨粒か、涙か、判断がつかない。
ふと、屡憂が威迥の傍に寄って片膝をついた。自分の手にしていた厚手のタオルでその冷たくなっている体を包んだ。
「ほら、帰ろう。それに、僕は有栖さんから君のことを頼まれているんだ。“威迥が自殺でもしようとしたら止めてくれ”ってね」
早速破らせるようなことをしないでよ、そう屡憂は云った。
威迥は今にも泣きそうな、でも綺麗な笑顔で笑って云った。
「うん、ありがとう…帰ろう。」
空に、一筋の眩いばかりの光が射し込んだ。
10/11/26