リヴァイ×ハンジ | ナノ

抗う者に救いの手を
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【東京喰種パロ】

【喰種と喰種を惹きつける人間】

 二人の出会いは大学だった。
「おい、忘れてるぞ」
「え……?」
 リヴァイが飲み物を買おうと自販機のある場所へ向かうと先客がいた。彼女はどこかぼんやりとした様子で自販機に紙幣を入れて飲み物を買い、ペットボトルを手に取るとそのまま歩いて行こうとしていた。そこにリヴァイが声をかけたのだ。おつりを忘れている事に気がついた彼女は、照れたように笑ってお礼を言うと自販機の前に戻って来た。
「少しぼんやりしていたみたいだ。教えてくれてありがとう」
 近づいて来た彼女からふわりと香る甘い香り。リヴァイはびくりと身体を揺らして腹に手を当てた。おつりを取って再度礼を言うと満面の笑みをリヴァイに向ける。彼女はリヴァイの様子に気づかずに去って行った。
「……あいつ、美味そうな匂いがしたな」
 リヴァイはポツリと呟いた。彼女から漂って来た食欲をそそる甘い香り。そして、彼女の笑顔が脳裏に焼きついていた。



 翌日。リヴァイは大学で缶コーヒーを飲みながらレポートを作成するための調べ物をしていた。トントンと肩を叩かれる。振り返るとにっこりと人の良さそうな笑みを湛えた昨日の彼女。
「昨日はありがとう。ここ、いいかな?」
「あぁ」
「私はハンジ・ゾエ」
「……リヴァイだ」
 自己紹介をした彼女からは相変わらず甘い香り。本当は肩を叩かれる前からハンジに気づいていた。
 当たり前のように人間世界に溶け込んでいるが、リヴァイは喰種である。
 喰種は鼻が利く。それにハンジの匂いは特別だ。喰種を惹きつける。こんな匂いのする人間をリヴァイは知らない。気を紛らわせるためにコーヒーを一口飲んだ。

 自販機前での出会いをきっかけに、二人は親交を深めていった。リヴァイは一人でいる事を好んだが、ハンジと過ごす時間は素直に楽しいと感じていた。
 そして、ハンジと交流していく中で、リヴァイは彼女に惹かれている自分に気づいた。食料としてではなく、一人の女性として。
 今までリヴァイにとって人間は食料でしかなかった。かといって喰種を大切に思っているわけでもない。どちらにも興味がなかったのだ。はじめての感情に動揺したが、不思議と嫌だとは思わなかった。
 ぎこちない手つきでハンジを抱き寄せる。頬を両手で包み込んで顔を近づけるとハンジはゆっくり目を閉じた。二人の唇が重なり、甘い香りがより一層強く香った。
 しかし、ハンジを食べて空腹を満たしたいとは思わない。

 それから数日後。リヴァイはハンジを自宅へと誘った。何の迷いもなく着いて来たハンジに一抹の不安を覚えたリヴァイは、男が女を部屋に呼ぶ意味が分かっているのかと問いかけた。するとハンジは小首を傾げて「友達を部屋に誘うのに特別な理由がいるのかい?」と言ってカラカラと笑った。
 ハンジのあまりの天然ぷりにリヴァイは深い深いため息を吐いた。しかし、予定を変更するつもりは微塵もない。
「こういう事はもう少し二人の仲を深めてからの方が良いのは分かっている。だが俺は、今すぐお前が欲しい」
 抱いても良いか、と問われてハンジは漸く意味を理解した。顔を真っ赤にしながらハンジは、おずおずとリヴァイの首に腕を回す。一つ深呼吸をしてからハンジは言葉を紡いだ。
「リヴァイになら……食べられても、いい」
 そんな言葉が、リヴァイが喰種だと知らないにも関わらず零れ落ちた。



 リヴァイは、ハンジと過ごす時間を幸せだと感じると同時に、もしも自分が喰種だとバレてしまったらという不安も感じていた。正体がバレれたらもう一緒にはいられないだろう。CCGに通報されるかもしれない。
 しかし、それよりもハンジに拒絶される事をリヴァイは恐れた。そう思うと人間を食べる事も出来なくなった。
 そんなある日、リヴァイは喰種に襲われて怪我をした。普段のリヴァイならそのようなヘマをする事はないのだが、暫く食事をしていないリヴァイは赫子を出す事が出来ずに本来の力を発揮する事が出来なかったのだ。なんとか追っ手を撒いて自宅まで戻ったが、思っていたよりも傷は深く、食事をしていないせいで治癒能力もかなり低下していて二日経った今でも傷が治る様子は見られない。
 大学を休んだリヴァイを心配して、ハンジが自宅へとやって来た。合鍵を渡していたことが仇となってしまった。ベッドに臥せっているリヴァイの傷に気づいたハンジは慌てて彼の元へ駆け寄った。
「それどうしたの!? 酷い怪我じゃないか!」
 ふわりと香る、あの喰種を惹きつける甘い香り。その香りが届いた瞬間、リヴァイは理性を失いハンジを床に押し倒して彼女の肩に噛みついた。吸血鬼のように啜ったその血は酷く甘く感じられた。今度はその肉に喰らい付こうと大きく口を開けて――。
「……っ、リヴァイ、あなた……喰種、だったの……?」
 痛みに耐えながら言葉を紡ぐハンジの声に我に返ったリヴァイは、彼女の上から飛び退いた。
 ――もう少しでハンジを食べてしまうところだった。
 ショックで固まっているリヴァイにハンジは痛む肩を手で押さえながら話しかけた。
「聞いたことがある。喰種は人間よりもずっと治癒能力が高いって。ここからは私の推論だけど、喰種は人間を食べることでそういった能力を高めているんじゃないかな?」
「…………」
 ハンジは、無言を肯定と捉えた。
「だったら、私を食べて」
「な、何を……」
「前にも言ったよね。リヴァイになら食べられてもいい……って」
 そんなこと出来るわけがない。したくない。それを言葉にしようとした時、ガチャリとドアが開く音がした。ハンジは鍵をかけ忘れていたことを思い出して青褪めた。
「喰種最強の男が敗れたという噂は、どうやら本当だったようだな」
 部屋に入って来たのは、口元に髭を蓄えた大柄な男だった。二メートル近くある身長で自分達を見下ろす男からリヴァイを守るようにハンジは彼に寄り添う。
「何の用だ。……ミケ」
「知り合いなのかい?」
「こいつも喰種だ」
 ミケと呼ばれた男はハンジを見てスンと鼻を鳴らした。それを見たリヴァイはハンジの肩を抱き、ミケを睨みつける。
「いくらてめぇでも、こいつに手を出したら殺すぞ」
「俺は“生きた人間”は食わん。知っているだろう?」
 そう答えたミケは、リヴァイに白い包みを投げて寄越した。
「それにそんな体で彼女を守れると思っているのか? 彼女を失いたくないのであれば、それを食べてまずは傷を癒せ」
 それだけ言うと、ミケは帰っていった。
 ミケの言葉からその包みの中身の予想はついた。ハンジは、包みを見つめながら自分と葛藤している様子のリヴァイの手に自分の手を重ねた。
「私のあなたへの気持ちはこれからも変らないよ」
 ハンジの言葉に、リヴァイは弾かれたように顔を上げた。
「俺を受け入れてくれるのか? 俺は……喰種なのに」
「そんなの当たり前じゃないか」
「俺は、人間を食うんだぞ」
「人間だって他の生き物を食べるよ。それなのにどうして喰種だけが責められなければいけないんだい?」
 ハンジと出会ってからずっと喰種であることを悔いていた。自分ですら受け入れられなかった喰種である自分を彼女はあっさりと受け入れてくれた。
「人間でも喰種でも関係ない。私はあなただから一緒にいたいんだ」
 甘い香りよりも強く惹かれるハンジの優しい笑顔。
 将来を誓い合うように、二人はそっと口付けを交わした。

20160528


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