「ハカセ、ハカセ、おきてください」

 ぱちりと目をあけると、もうお日さまは昇りきっていてキラキラとやわらかい光が窓から差し込んでいました。ぼくは足元でまるまって眠るハカセを起こすために、そのやわらかなおなかに手をおいて、ゆさゆさとゆすりました。お日さまの光のたまったところで眠るハカセは、長くて先の曲がった鈎尻尾をものうげにゆらすだけで起きようとしません。
 ぼくは寝ぼけた頭をゆすりながら、どうにかしてハカセを起こせないものかと考えました。あ、これがいい。そして、思いついた作戦を実行すべく、のそのそと布団からでて、ベッドからおりようと足を床にのばします。ピタッ、ヒヤッ。足の裏からはい上がってくるような冷気に身をすくめながらも目的地の窓際へと向かいます。

「冬の空気はすんでいて、とてもきもちがいいですよね」

 そっとふれたガラスが思った以上につめたくて、びっくりして思わず叩きつけるように窓をあけてしまいました。それと同時にぶぁ、と吹き込んできた風は肌をちくちくと突き刺すようなつめたさでした。

「くしゅん」

 ぼくが体を震わせるのと一緒に背中から、かわいらしいくしゃみの音。ゆっくりと振り返るとハカセがのっそり起き上がり、おおきなあくびをしているところでした。あ、ハカセのあくび顔ってとっても迫力があるんですよ。

「おはようございます、ハカセ。あ、ほっぺに寝癖がついていますよ」
「おはよう。しかし、その顔は、わたしをばかにしているのかね」

 つやのいい、きれいな黒い毛をせっせと毛づくろしているハカセをみて、ぼくの顔は思わずゆるんでしまいます。へにゃっ。

「そんなことありませんよ。ぼくはハカセのこと、とっても尊敬していますもの」
「そういう台詞はもっと顔を引き締めて言ってもらわねば、信憑性に欠けるよ」

 そういってまた、かわいらしいくしゃみ。

「もう、窓閉めますね。あと、こたつに火をいれましょう」
「それがいい」

 するりと立ち上がったハカセにみ惚れてしまいます。つややかな黒い毛に冬の白い光が反射してとてもきれいです。

「あ、床はつめたいですよ。にくきゅう気をつけてください」

 ベッドから飛びおりようとしていたハカセにそういうと、動きをとめて、じっとぼくの方をみてきました。

「そう言うなら、君が連れていってくれよ」
 ぼくは小走りでベッドに近づき、やわらかいハカセをふんわり抱き上げました。

「しかたがないですね」

 一瞬、のどをごきげんにならして、しまった、といいたげな黄色い目でぼくをみてきたハカセは、あたたかいお日さまのにおいがしました。





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今日のお菓子は三題噺さま提出
お題:寝癖 尻尾 くしゃみ
        卯月さまより

 

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