(熊谷と秋月と庄司)
雨のにおいがした。土臭いむわっとする春の雨のにおいが。まだ肌寒いのにな。触れた髪はいつも以上にうねうぬとねじまわり存在感を放っていた。湿気がだいすきな俺の茶色い髪に指を絡める。 「一雨きそうだよ」 両隣を歩く幼なじみに言うでもなくつぶやいて、ウインドブレーカーのフードをかぶる。 「留利、ここから俺の家までダッシュで何分?」 「全力で四分」 「あー、無理だ。ギターあるし」 俺も二人の幼なじみもなぜか、高校撰びの一番のポイントは、徒歩で通えることだった。普通に歩いて三十分。部活仲間に言ったら、もうそれは自転車の担当だと笑われた。でも、こうして三人仲よく毎日歩いて通っている。俺の右手にはギターケースをかついだ時也、左手には目を細めて空をみている留利。この並びはは幼稚園のときから変わらない。 「てか雨ってまじでか、創乃」 すこし歩みをはやめながら時也がみ下ろしてくる。 「これは降る」 突然フードをはがれてなにごとだと思っていたら、左側から声がした。頭に違和感。目を留利に向けると長い指が俺の髪に絡められていた。 「なにしてんの」 「この感じなら、もうすぐくる」 「あー、ほんとだわ」 声と一緒に髪に絡まる指が増える。両側からくるくるの髪をぐるぐるにされる。なんだよこれ。 「創乃の髪の毛予報はよく当たるからなー」 「なー」 「じゃあ、マクドでもよるか」 「奮発してモスは?」 「あー、いいねぇ」 「どこでもいいから、指離せよ」
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