no.001

 下沢の部屋は殺風景だ。
 いや、殺風景というには語弊があるかもしれない。ものはある。でも、家具がない。
 部屋にあるのは、古いデッキ付きテレビに、大量に床につみかさねられている映画のビデオ。それから、服や小物をしまうためのこれまたつまれたプラスチックケースが五つ。あと、俺がいまとりこんだふとんが一組。カーテン一枚で仕切られたこの部屋には、ビデオ以外は必要最低限のものしかない。いつみても、生活感がものすごくあるようで、ない。ふとんをビデオの山にひっかけないようにしてたたむ。ぼふっと飛びこめば、太陽のにおいがした。ねむ。

 下沢は大学の陸上部にはいっているので朝がはやい。俺が起きだすころにはたいていいない。それからだいたい夜も遅い。
 下沢は朝起きるとまず洗濯機をまわす。それから、自分のふとんをベランダに干して、ふたり分の朝飯と弁当をつくる。下沢は料理がうまい。んで、ごちゃごちゃしてから朝練にいってる。たぶん。気をつかってくれているのか、俺はそれらの物音で目を覚ましたことがない。だから、たぶん。
 一方俺は、まず顔とか洗ってから、下沢がおいておいてくれる朝飯を食べる。下沢のつくる飯はうまい。スポーツをしているからか、バランスもいい。下沢と暮らすようになってから風邪をひかなくなったというのは話のいいネタだ。それから洗濯物を干して、外にでる。帰ってきたらふとんと洗濯物をとりいれて、夕飯をつくる。
 いつのまにかできたサイクルをほぼ毎日繰り返している。ベランダには下沢の部屋からしかでられないので、ほぼ毎日下沢の部屋をみている。服はあるていどいれかわっているが、物が増えることはほとんどない。ビデオも増えない。唯一、ベランダの物干しに吊ってある履き潰されたランニングシューズだけが、この一年で数を増やしていた。



殺風景
( 2012/08/18 上野と下沢 )


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