no.022


 ただいまー、と間延びした声といっしょにストッパーをひっかけて開けっ放しにされていた玄関ドアから部屋にはいる。おかえりー、とおなじく間延びした上野の声がこれまた開けっ放しの廊下と居間を仕切るドアをとおってきこえてくる。上野はいつもどうりふたり分の洗濯物をたたんでいた。
 居間といっても、台所と万年コタツとふたりの私物が散乱した共有スペースだ。俺の私室は居間と黄緑のカーテンで仕切ってある。上野はそのカーテンを開け、居間と部屋のきわきわにおいてあるブラウン管とビデオが一体になったテレビでシックスセンスをみていた。

「風呂入らないのか」
「大学でシャワー浴びてきた」

 一直線に居間にあがってきた俺に視線をなげてきた。それから、ああそう、とたたみおわった服をわたされた。んじゃ飯か、ふわふわの茶髪をゆらして立ちあがった上野は自分の服をもって、ちゃんと扉のついた自室にはいっていた。

 ルームシェアとは、どんな感じなのだろうかと思っていた。
 最初の数週間こそ友人の家に泊まりにきたようなどこか浮かれた空気だった。
 俺もだが上野も他人をあまり気にしない人間だったらしい。まあ、そうでなければ初対面の人間に同居を提案したりはしないだろう。地元の友人には心配されたが、互いが居心地がいいようにと「いつもどうり」もできていき、なんだかんだたのしく暮らしている。
 ここはいい。高校時代の息苦しい寮よりも、息を殺して命を消費していた叔父の家よりも、俺にとってはいきやすい。

「今日の夕飯は冷やし中華な」
「昨日もそれやったやん」
「今日は胡麻ダレだから。昨日のはなんか酸っぱいやつだったろ」



茶飯事
( 2012/08/14 上野と下沢 )


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