「俺、写真部に暗室があったこと知らなかった。」
「ほんと?暗室がないと写真の現像ができないんだけどね。」
俺のつぶやきに対して、至極当たり前のことだと言わんばかりに返してきた。
写真の現像はカメラ屋に任せていればオッケーかと思っていたけど、どうやらうちの写真部は本格的なものらしい。
とは言っても、部員数は純ひとりで廃部の危機であるわけだけど。
「あ、これ?この前賞取ったってやつ。」
この暗室には現像するための機材だけでなく、純の作品も数点置かれていた。
「うん、それ。賞が取れちゃうなんて、ラッキーだよね。同好会にならずに済む。」
くすくすと作業を止め、写真を眺めながら笑う純。
この写真がただのラッキーなんかではないことを俺は知っている。
「純はすげぇな…」
「えー。なに、突然。」
「や、なんか言いたくなった。」
急に照れくさくなって、視線をいたる方向へ飛ばせば、あることに気が付いた。
「純の写真はねぇんだな。」
「まぁ…私は撮る側だからね。」
写真の中にはクラスメイトだったり、教師だったり。
この学校に通う人たちの何気ない日常が思い出として残っている。
だけど、そこに純はいない。
いるのに、いないのだ。
「今使ってるカメラってこれ?」
「そうそう。なに、太一も写真撮るの?」
「うん。純、こっち向いてー。」
純が向いたと同時に純の唇に自分のそれを押し当てた。
そして、レンズをこちらに向けて、シャッターを切った。
「…絶対、ピントずれてるよ。」
「ふは。じゃあ、もう一回やる?」
「…うん。」
俺は再び純にキスをした。
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bkm