誰もいない一人きりの放課後。
手にはシャーペン、机の上には日誌。
カリカリと止めどなく動いていたシャーペンは今日の出来事の欄でピタリと動かなくなっていた。
今日一日を振り返ってみても、特になにもありませんでした。
いつもと同じ毎日が当たり前のように過ぎていきました。
「そんなこと、書けないしなぁ…」
「なにが書けねぇの?…あー、日誌か。」
太一は私の手元にある日誌を覗き込み、一人で納得していた。
「今日の出来事っていつもと変わったことなんかなかったし、書けないよね。」
「まーなー。つか、空欄で出しちゃえば?他の奴らはそうしてるっしょ?」
「でも、こういうのはきちんと埋めたくなる。」
変な所が真面目な私はそれが許せない。
我ながら厄介な性格だ。
「んー…あ!純、シャーペン貸して!」
太一は私の手からシャーペンと日誌を奪うと、いそいそと何かを書き始めた。
太一がなにを書いているのか。
私からはそれが見えない。
「てゆーか、太一、帰ったんじゃなかったの?」
「帰ろうとしたけど、純の靴がまだあったから、戻ってきた。…よし、できた!」
「なんて書いたの?」
太一の手から日誌を返してもらおうとすると、サッと避けられてしまった。
「ちょっと!日誌、貸してよ!」
「純は見なくていいって!俺が出しといてやるから、な?」
「なんて書いたか見てからじゃないとやだ。太一のことだから、変なこと書いてそうだもん。」
「俺って信用なくね?太一くん、泣いちゃうっ!」
ケタケタと笑いながら、日誌を差し出してきて、ありがたく受け取ろうとしたら…
「んっ…」
いきなり腕を掴まれて、そのまま唇に太一のそれが当たった。
「ん、有言実行!」
「有言って…なにも言ってないじゃん。」
「ん?言ってないけど、書いたから、有書実行?」
太一の言葉を理解して、慌てて日誌をめくれば、
ファーストキス記念日!
と今日の出来事欄にデカデカと書かれていて。
顔から火が出そうなほど、恥ずかしくなった。
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bkm